MIHARUアラウンド(転換期)

3連のターコイズネックレス

健史と『金魚』で別れ話を終えてから、週末までは仕事に忙殺された。
そして待望の日曜日の朝がやってきた。
横浜高島屋では今日から”日本ビーズアーティスト展覧会”が催されている。

窓を思いきり全開にして美春は空を見上げた。
11月手前の凛とした空気の中に雲ひとつない澄み渡る青空。

”日本ビーズアーティスト展覧会”に思いを馳せて美春の心は浮き立っていた。
ビーズ作家の第一人者たちの作品がこぞって展示されるのだ。
一部のマニアックな天然石ファン、そしてビーズアクセサリーファンには待ちかねた催しだった。

白のタートルネックセーターに、普通の人ならば躊躇するくらい大ぶりなターコイズの3連ネックレス。
さらに大ぶりなターコイズリングを美春はあわせている。
茶色のスエードスカートにブーツ、ターコイズに合わせてウエスタン調を意識してみた。
仕上げにトレンチコートを羽織って美春は家を後にした。

麻生とは駅前で待ち合わせしている。
健史との関係がひと段落したこともあり、美春の足取りは軽い。
ふんふんふーんと鼻歌を歌いながら近所の家の柵から飛び出している葉っぱを”ぶちっ”とむしったりする。
30歳目前というのに草むらのベンチで酒をラッパ飲みしたり、近所の家の葉っぱをむしったり、美春はときおり大人の女性とは思えない幼稚な行動をする。
美春の魅力は、そんな不安定なところや幼児性に起因しているところもあるのでまたそれが面白い。
駅に着くと、先に到着している麻生の姿が見えた。
黒いタートルネックセーターにジーンズというシンプルな着こなしが長身の麻生に似合っていた。

「おはよー!はやいね」
美春は麻生のもとに駆け寄った。
「おはよう」
「…いやあ今日は一段と派手なアクセサリーだね…」
麻生は美春の胸元のターコイズネックレスに視線を落とした。
感心するというよりも、ターコイズネックレスの迫力に、度肝を抜かれているという表情をしている。
「素敵でしょうこのターコイズ、他の来店者も派手な人がたくさんいると思うから負けられないもんね」

「負けれられないって何の戦い?おれには全くわからない女の世界だ…大丈夫かなあ、おれその会場にいて、なんか自信がなくなってきた」

そんな麻生の戸惑いはいかにも男のひとといった感じで美春にはおもしろく微笑ましかった。

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