MIHARUアラウンド(乾杯!)

これも何かの縁

「口が勝ってに動いてしまうのは美春ちゃんの得意技だな」

麻生はそう言ってハンバーグを口に運んだ。
「それにしてもこのハンバーグはうまい!ハンバーグも得意技だ」
とてもおいしそうにハンバーグを咀嚼する麻生に美春はほっと安堵の気持ちを抱いた。
実はまだまだ麻生に言わねばならぬことがある。
どのタイミングでそのことを切り出そうかと美春は麻生の様子を伺っている。

「明日会社に退職の意志を伝えるつもりなの」
「ナツコさんには退職の目途が立ちしだい、連絡する形になってるから」
咀嚼したハンバーグをビールで押し流すと、麻生は”がんばれよ”そう美春を励ました。
「退職を決意したのならその”ナツコさん”のもとで全力で頑張れ」
「きっとこれも何かの縁だろう、美春ちゃんは新天地でもきっと成功するよ」
「おれはずっと応援している」
麻生は初めて出会った時と同じ、細い少したれ目気味の笑顔になった。

この笑顔に惹きつけられて、今の美春と麻生がある。

『きっとこれも何かの縁だろう』

しかも麻生は響ナツコと全く同じセリフを口にする。
ふたり偶然同じ39歳という年齢もだ、これも何かの縁なのだろうか。
『縁』…そうだ縁があるんだ。
美春はこの言葉に勇気づけられ背中を押された気持ちになった。

「そう言ってくれてありがとう!がんばる!」
「でもナツコさんのところは個人の有限会社だからお給料はがっくり下がっちゃうんだあ、それだけが難点…」
美春は軽くため息をついた。
「今のアパートの家賃が8万円でしょー、その他に高熱費がかかるでしょー」
そう言いながら冷蔵庫のドアを開けてビールを取り出す。
「飲む?」とにっこり笑いながら麻生の前に冷えたビールの缶を差し出した。

”ありがとう”と麻生はビールを受け取った。
そんな麻生の様子を美春は上目遣いに観察しながら「あのう…相談があるんですけどお」とつぶやいた。
プルトップの缶を開けながら「美春ちゃんがおれに敬語を使うなんて何事だ?」と麻生は笑う。

「このマンションにわたし引っ越してきちゃだめ?」

美春のこのセリフにはさすがに麻生も驚いた。
言った美春は冷えたビールを片手に”えへへ”っと笑っていた。