作戦成功?それとも失敗? : MIHARUアラウンド(乾杯!)

作戦成功?それとも失敗?

美春の突然のセリフに麻生は無言になってしまった。

そんな麻生にお構いなく、ベランダの窓を開けて、夜景を背景に美春はしゃべり続けた。
「だってこのマンション4部屋もあるし、荷物も全然ないし、もったいないし」
美春は麻生に”お願い”のポーズをした。
「家賃と高熱費がとにかくきついの!きちんと生活費は入れるから!」
麻生は無言のままビールを飲んでいる。
この上なくあつかましい相談だ、麻生のこのリアクションは当たり前だった。

”あれえ、しくじったかな?作戦失敗?”

居心地が悪くなってきたので美春はビールをごくごくと飲んだ。
「わあ今日も夜景がきれい」
…などとわざと空気の読めない発言を交えながら…。

「それにしても今日のハンバーグはおいしかった」
しばらくの沈黙の後、唐突に麻生が口を開いた。
「こんなにおいしいハンバーグが食べれるなら、美春ちゃんが引っ越してくるのも悪くない話しだな」
美春の表情がぱあっと明るくなった。
「それってOKって思っていいの!?」
「その代わり、新天地で存分に本領を発揮してくれよ、それが条件だから」
「任せといてよー!おいしいハンバーグも作るからねっ!」
うれしさのあまり美春は麻生の背中をばしばしと叩いた。

響ナツコのもとで新しい仕事がはじまり麻生とふたりの生活も同時にはじまる。
そして美春はもうすぐ30歳になる。
12月18日の誕生日が過ぎればあっという間に大晦日。
そして新しい1年のはじまりを迎える。

雨の中『麒麟屋』を飛び出したつい3ヶ月前、こんな急転直下の年末になるなんてどうして想像できただろう。

すべては9月の雨の日からはじまった。
「あっ…」美春はベランダ越し夜空に視線を移す。
「…雨がふり出してきた…」
”うわっ本当だ”麻生が窓の外をのぞき込んでいる。

ふたりでいる時には本当に雨が多い。
美春は窓を閉めた。
緩やかな雨足は、遠くの家の明かりやビルの明かりをぼんやりと滲ませていた。