共に仕事してきた仲間たち : MIHARUアラウンド(乾杯!)

共に仕事してきた仲間たち

相談の結果、12月末までは通常勤務して、次のアシスタントMDに一通り業務の引継ぎをすることになった。
美春が手放したチャンスはその人にゆだねられることになる。

重役室を後にしようとドアに向かって歩いているその時「片桐くん」松沢副社長は美春を呼び止めた。
「片桐くんは、縛られない社風の会社で働くほうが能力を発揮するかもしれないな」
松沢は続ける。
「新しい会社でもがんばって」
「ありがとうございます、そんな風に言っていただけて嬉しいです」
美春はペコリと頭をさげた。

重役室のドアを開けて廊下に出る。
振り返り松沢と秋山、岡に一礼してドアを閉める。
これで終わった…。
スカッと青い空と裏腹に美春の心にはぽっかりと穴があいた。

― 自分の選んだ道を信じるしかない、自分の努力だけが自分を裏切らないだろう ―


フロアに戻ると、天野や西条が心配そうな顔で美春のもとに駆け寄ってきた。
「どうして副社長に呼ばれたの?なんかあった!?」
美春は言葉に詰まった。
『ナチュラリスト』のために今まで2年間、特にこの1ヶ月は、強い連帯感を分かちあい仕事に励んだ仲間だ。
あまりにも急展開に退職に至る顛末を、どうすればうまく説明できるだろう。
「そんなにたいしたことじゃないんだけどぉ…」
煮え切らない態度で返事をしていると、岡マネージャーがひと足遅くフロアに戻ってきた。

「片桐くん、ちょっといい?」
岡マネージャーのデスクに美春は呼び出された。
天野と西条は、そんな美春の背中をことさら心配そうに見守っている。

「いったいどんな理由だ」岡は美春から目線をそらしている。
「聞きたいことが山ほどあるが、それは個人的に聞かせてもらう、今日酒に付き合え」
そらしていた目線を美春に戻しながらビジネスライクに言葉を続けた。
「退職の件は、フロアの社員にマネージャーのわたしから今伝えます、いいですね?」

天野と西条に詰め寄られ説明に困っていた美春だ。
もう少し時間の猶予が欲しいのが本音だったが、断る余地はなかった。

美春は”はい”と頷いた。