まわるまわるワインがまわる : MIHARUアラウンド(乾杯!)

まわるまわるワインがまわる

「10月に”日本ビーズアーティスト展覧会”という催しがあったんですが…」

いっぺんに色々なことが起こりすぎて、遠い過去のような感覚に襲われながら、2か月前を美春は回想する。
「その展覧会で”響ナツコ”というジュエリー作家の作品に出会いました」
「とても衝撃的な出会いでした、わたし、体内時計が止まって体に電気が走りましたもん」
”うんうん”と横顔で頷きながら、岡は熱心に美春の話しに聞き入っている。
そんな岡の真摯な態度に勇気づけられて、美春はさらに事の経緯を話し続けた。

「数日経って本屋で一冊の本を手に取ったところ”響ナツコ”がアーティストとして紹介されていたんです」
「紹介記事には彼女のプロフィールとともに、活動履歴や個展の案内が記されていました」
「これはもう行くしかないだろう!と、勇んで個展に駆けつけたところ…」
一息ついて美春は白ワインを口に含んだ、そして目は遠くを見つめた。
「これがまた素晴らしい個展で!正直言ってわたし打ちのめされました、とにかくあらゆるセンスが凄いんですよ!」

岡はカウンターに肘をついて頭を抱えた。
「…またセンスか…そのセンスっていうのがおれにはわからん、そっち方面で頼りにしてたおまえは辞めちまうし!」
「うわっ岡マネージャーの地雷踏んじゃった!」
「ってゆーかマネージャーが髪を振り乱して悩んでる姿、音楽の教科書に載ってたベートーベンみたいで面白いですね」
ワインの酔いがまわり始めていた。
初めは体が凝固していた美春だったが次第に口が軽くなってくる。
それは岡も同じだ。
「何がベートーベンだっ、お前は年上を舐めてるのかっ!?」
岡と美春は腹を抱えて笑った。
これじゃあ、上司も部下もあったものじゃない。

さんざん笑うと岡はふと真顔になった。
「重役室でいきなり退職を告げられ、直属上司の俺が何も知らない、面目丸潰れもいいところだ」
「そうとう腹がたった…というよりも何が起きたのか理解できなかった」
美春から再度笑顔が消えた。
「…すみません…」と言葉を絞り出す。

「それぞれの人生がある、だから信頼を裏切られたとまでは言わない」
「だがおまえのやりかたは乱暴だ、以前の販促会議での失言も踏まえて、もっと人としてこなれるべきだ」
岡はぐいっとグラスの焼酎ロックを飲んだ。
「おまえには魅力がある、屈託のない物言いも、たしかにお前の長所に一役買っている」
「だが、力技と乱暴さを同じように捉えてはいけない、そのふたつは似て非なるものだ」

「長所を消す必要はない、人としてこなれる努力をしろ、そうしないと次第に伸び悩む…」
岡はしんみりと語った。