誕生日にはシャンパンを : MIHARUアラウンド(乾杯!)

誕生日にはシャンパンを

あんなにもセンシティブに構えていた30歳の誕生日だというのに、いざ迎えれてみれば何てことはない。

― 無条件に自分を認めてくれる人がいる、求めてくれる人がいる ―

そのことが、どれほど心強く生きる勇気を与えてくれるのか、30歳になって初めて美春は知った。
自分のためだけではなく、その人たちがくれたもののために生きる。
その人たちが先にくれた気持ちにわたしも還元する。

何よりも麻生がいるから頑張れる。
無条件に自分を認め、求めてくれるのは誰よりも間違いなく麻生だろう。

”だからわたしは頑張れる”

丁度ハンバーグが焼き上がった。
まるでそのタイミングを見計らうように麻生が帰宅してきた。
8時になるちょっと前だった。
「ただいま、おいしそうな匂いがする」
そう言いながら麻生は靴を脱ぐのも面倒くさそうに玄関からリビングに上がってくる。
面倒くさい気持ちを証明するかのように、カバンも脱いだコートも”ばさっ”と無造作にソファーにおかれた。
相変わらずカジュアルノーネクタイの麻生を美春は横目に見る。
「そう、今日は前回好評だったハンバーグを作っています!」
そう美春が言い終わるや否や、麻生は美春の目の前にシャンパンのボトルを突きつけた。

「誕生日おめでとう」

美春はボトルの銘柄を読んだ。
「ああーっドンぺリニョンだあっ!!」
「たしか誕生日にはドンぺリニョン飲みたかったんだよな」
くだけたスーツ姿で麻生はにやっと笑った。
「飲みたかったけど、飲みたかったけど、ラッパ飲みはしないよ」
冗談ではなく本気の表情で美春がそう言ったので麻生は吹き出しながら笑った。
「美春ちゃんならやりかねないと思ったけど、さすがに恥じらいを知ってるのか!」
「それ…人の誕生日に言うセリフ?気分悪い、でもありがとう」
からかいの言葉はさて置いて、麻生の気遣いを美春は素直に喜んだ。