仕事への評価と裏切り : MIHARUアラウンド(乾杯!)

仕事への評価と裏切り

「おはようございまーす!」

夕べの雨はどこへやら、すかっと晴れ渡る青空の中美春は会社に出勤した。
12月3日月曜日、本日MD昇格への正式辞令が下りることになっている。

「片桐さん、なんかテンション高くない?」天野と西条がすかさず美春に突っ込みを入れてくる。
昇格の件をすでに知っている岡マネージャーも、わざとらしく美春に声をかけてきた。
「おっ片桐、今日はいつにもまして元気がいいな、なにかいいことでもあったのか?」
アシスタントから正式なMDへの昇格が美春の元気の源と岡は勘違いしたのだろう。
そんな岡の気持ちを察すると美春は心が痛んだ。

― このあと重役室に呼ばれ、わたしはみんなの期待を裏切ることになる ―

『ナチュラリスト』の各店からの日報がFAXで流されてきた。
昨日も目を見張る売上げだった。
心がリンクするとこんなにも数字が変化するものなのか…。
美春と天野と西条の連帯感と目的意識、それに付随する現場の向上心。
絡みあい連動し、すべてを巻き込む。
『ナチュラリスト』はこのまま軌道に乗るのかもしれない。

落ち目といえど、大手の会社から仕事ぶりを評価され、正式なMDへの辞令を受ける今日…。
わたしはもしかしたら選択を間違えているのかもしれない。
このまま頑張り続ければ、人もうらやむ輝かしい未来が待ち受けているかもしれない。

― なのに美春には微塵も後悔がなかった ―

だいたい片桐美春に後悔は似合わない。
そんなに器用に生きれるタイプではないじゃないか。
いきなり焼肉屋を飛び出したり、人目もはばからず草むらでスパークリングワインをラッパ飲みしたり…。
いつも恥ずかしくて悔やむことの連続だ。
人生はままならない、だからこそ人生は飽きることなく続いていくのだ。

重役室に呼び出されるであろうその時を美春は息を飲みながら待ち続けた。