退職する理由は?
ハンバーグはふっくらと上手に焼けた。
水菜とベーコンのサラダもしゃっきりと新鮮な彩りでおいしそうだ。
軽いアペリティフ感覚でビールを口にしながら、ふたりは落ち着いてテーブルの椅子に腰を下ろした。
「では早速今日の個展の話しなんだけど」
水菜のサラダを小皿に取り分けながら、美春は響ナツコの個展でのエピソードを語りはじめた。
― それはそれは期待を上回る個展であったこと。
製作キットをここぞとばかりにボーナス払いで大量購入したこと。
…製作キット大量購入の話しのくだりでは、美春の物欲の深さに麻生は少し眉をひそめたが…。
響ナツコ本人に実際に会えて話しができたこと。
想像以上に有意義な時間を過ごすことができたこと ―
焼きあがったハンバーグにナイフをいれると閉じ込められた肉汁が溢れだしてくる。
たっぷりとデミグラスソースを絡ませながら、美春はハンバーグをゆっくりと口元に運ぶ。
「自画自賛していい!?このハンバーグおいしい!」
麻生も”たしかに”と頷いている。
取り皿に箸を置いて「ところで相談なんだけど」美春は麻生に向き直った。
「どんな相談?」来たかとばかり、麻生は慎重な面持ちになる。
「わたし今のアパレル会社、退職することにしたから」
美春のこの発言に麻生はあまり驚かなかった。
もっとオーバーなリアクションを想像していたので、美春は少々気が抜けてしまった。
「MDへの正式な昇格が決まって喜んでた矢先だよね、退職する理由は?」
麻生はとても真摯に退職理由を聞いてきた。
「実は…、響ナツコさんのアシスタントとしての採用が決まったの、しかもいきなり今日」
”ほう”と麻生はつぶやいた。
「それは驚きの展開だね、どうしてそうなったの?」
美春は響ナツコとのやり取りを思い出しながら麻生に説明した。
「響ナツコさんにお会いしたらご本人が作品同様とても素敵な人柄で…いろいろと話しているうちに」
「なぜか勝手に口が動いて『あなたのアシスタントにしてください!』って言っちゃった」
美春はぺろりと舌を出した。
「そしたら即採用となっちゃって」
「いや、あせったあせった、だってこんな展開まったく予想してなかったし」
何も言わず、そんな美春の説明を麻生は聞いていた。
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水菜とベーコンのサラダもしゃっきりと新鮮な彩りでおいしそうだ。
軽いアペリティフ感覚でビールを口にしながら、ふたりは落ち着いてテーブルの椅子に腰を下ろした。
「では早速今日の個展の話しなんだけど」
水菜のサラダを小皿に取り分けながら、美春は響ナツコの個展でのエピソードを語りはじめた。
― それはそれは期待を上回る個展であったこと。
製作キットをここぞとばかりにボーナス払いで大量購入したこと。
…製作キット大量購入の話しのくだりでは、美春の物欲の深さに麻生は少し眉をひそめたが…。
響ナツコ本人に実際に会えて話しができたこと。
想像以上に有意義な時間を過ごすことができたこと ―
焼きあがったハンバーグにナイフをいれると閉じ込められた肉汁が溢れだしてくる。
たっぷりとデミグラスソースを絡ませながら、美春はハンバーグをゆっくりと口元に運ぶ。
「自画自賛していい!?このハンバーグおいしい!」
麻生も”たしかに”と頷いている。
取り皿に箸を置いて「ところで相談なんだけど」美春は麻生に向き直った。
「どんな相談?」来たかとばかり、麻生は慎重な面持ちになる。
「わたし今のアパレル会社、退職することにしたから」
美春のこの発言に麻生はあまり驚かなかった。
もっとオーバーなリアクションを想像していたので、美春は少々気が抜けてしまった。
「MDへの正式な昇格が決まって喜んでた矢先だよね、退職する理由は?」
麻生はとても真摯に退職理由を聞いてきた。
「実は…、響ナツコさんのアシスタントとしての採用が決まったの、しかもいきなり今日」
”ほう”と麻生はつぶやいた。
「それは驚きの展開だね、どうしてそうなったの?」
美春は響ナツコとのやり取りを思い出しながら麻生に説明した。
「響ナツコさんにお会いしたらご本人が作品同様とても素敵な人柄で…いろいろと話しているうちに」
「なぜか勝手に口が動いて『あなたのアシスタントにしてください!』って言っちゃった」
美春はぺろりと舌を出した。
「そしたら即採用となっちゃって」
「いや、あせったあせった、だってこんな展開まったく予想してなかったし」
何も言わず、そんな美春の説明を麻生は聞いていた。
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