個展開催初日 : MIHARUアラウンド(転換期)

個展開催初日

12月2日の日曜日、今日は『響ナツコ』の個展開催の初日だ。

先日キットとして購入した、バロックパールとルチルクォーツのネックレスを美春は首にかけた。
そして玄関口の鏡の前に立った。
これまた先日社販で購入したベージュのニットワンピースにこのネックレスはしっくりとなじむ。
美春にとって、とても満足のいくコーディネイトが完成した。
白いラビットファーのコートをワンピースの上にふわりと羽織ると、寒い冬も何のそのという気持ちになった。

正式なMD昇格への美春の報告を麻生はすごく喜んでくれた。
「アラウンド30にむけて幸先のよい出来事だね」
そんな会話とともに居酒屋『らいおん』でふたり、ささやかなお祝いをした。

今年ももうわずかで終わる。
12月18日がくれば美春は30歳を迎え、正式なMDへと昇格しているはずだ。
草むらのベンチで泣きながらビールを飲んだ、麻生と出会った9月のあの日がずいぶんと昔のように思えてしまう。

麻生は会社に休日出勤しているので、響ナツコの個展が催される恵比寿の会場に美春はひとり足を運んだ。
個展初日には響ナツコ本人がやってくると記載されていたので、美春は今日にこだわっていた。


古い一軒屋の日本家屋を改造した建物が、本日の個展の会場だった。

恵比寿の駅に到着して、地図を片手に15分ほど美春は歩く。
普通の住宅街の一画にその建物はぽつんと存在していた。
良くまあこんな場所にあるこんな建物を会場に探し当てたものだと美春は妙に感心した。
たとえば昔ながらのおもしろい窓のかたちとか、味のある木の床とか…。
そんな古い日本家屋の良い部分だけを残してリノベーションしてある、とてもムードのある外観の建物だった。

わくわくしながら美春は会場の扉をあけた。
初日だけあって、会場内は人の熱気でみなぎっていた。

― 響ナツコのアーティスト活動の集大成ともいえる作品群がそこには展示されていた ―

BACK HOME  NEXT