ジュエリーデザイナー特集 : MIHARUアラウンド(転換期)

ジュエリーデザイナー特集

今日は麻生が、おいしいワインと手料理をふるまってくれることになっている。

麻生のマンションにむかう前に手土産にチーズでも買っていこう、本屋にも立ち寄りたいし。
約束の時間は6時だったが、そう思って少し早めに美春は家を出た。

土曜日の夕刻の商店街は人で賑わっている。
風景が何となく平日と違うように感じるのは、男性の姿が多く見られるからだろうか。
週末くらいは家事の手伝いをしようという配慮なのか、家族連れの男性がスーパーの袋をふたつ三つぶら下げて歩いている姿がたくさん目に留まった。
「あっ袋からネギがとび出してる、今日の晩御飯は鍋が主役なのかな?」
…などと食卓の想像をしながら美春は本屋に足を運んだ。

クリスマスにむけて、男性からのプレゼント特集に力を入れている女性誌も多い。
本屋の店頭にはたくさんの女性誌が山積みされている。
『彼からもらうならこんなデザインのリング』そんなキャッチコピーで各誌、たくさんのジュエリーが紹介されていた。
コスチュームジュエリーの特集を組んだ専門誌を美春は手に取った。
無造作にページをめくる美春の目に、見覚えあるデザインのジュエリーが飛び込んできた。

新進気鋭のジュエリーデザイナー特集 『響 ナツコ』

”響ナツコ”本人の顔写真とともに、現在に至るまでのプロフィール、アーティスト活動の内容がつぶさに掲載されている。
見開きページで、この特集のために新しくデザインしたジュエリーが何点か紹介されていた。

美春はページをめくる手を止めて、特集ページを凝視した。

響ナツコってこんな風貌の女性なんだあ…。
無表情に遠くを見つめるようなモノクロの顔写真だった。
1969年生まれの39歳、化粧っ気のない素肌に長い髪を無造作にまとめた、少し乾いた雰囲気の女性。
童顔でもなく老けてもなく、日本人っぽくも西洋人っぽくもない。
― 何にも属さない カテゴリーを感じさせない ―
それが響ナツコというアーティスト。

紹介されている新作のジュエリーは、美春の期待を裏切らない素晴らしさだった。
緻密と大胆が巧みに共存する作風は変わらない。
ターコイズとローズクォーツという素材をこんな風なデザインに仕上げるのかあ…見れば真似はできるけど思いつかないなあ…。
美春は食い入るように紙面を見つめた。
ページの一番下の欄に、響ナツコの今後の活動日程とホームページアドレスが記載されている。

「12月2日から個展やるんだあ、行きたーい」
そうひとりつぶやいておもむろに本屋の外に目をやると、真っ赤に滲む夕日がビルの陰にまさに飲み込まれる瞬間だった。
美春は慌ててレジにむかい、その本を購入した。
近くのお店で手土産のチーズを購入すると、寒空の中、足早に麻生のマンションにむかった。

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