会社を辞める覚悟
…わたしは『ナチュラリスト』のMDに昇格した矢先で…これから前途洋々の未来が…。
たった10分程度のやりとりで、会社を辞めて響ナツコのアシスタントとして働くことが決まってしまった。
しかも、衝動的に口走ってしまった、たったひと言によって。
美春がこの展開に呆然としても仕方がないことだろう。
ところが美春の心の中で予想外の化学反応が起こりはじめた。
『ナチュラリスト』のMD昇格への未練が心からあっという間に消えてしまったのだ。
自分でも驚くくらいあっさりと、今の会社を辞める覚悟も一瞬で決まった。
それどころか、響ナツコのアシスタントという新しい未来に希望さえ見出している。
不思議な縁がある…。
職業としてジュエリーの世界に転身するために、わたしは今日個展に足を運んだんだ。
アパレル業界は当然大好きだったけれど、でもきっとジュエリーがわたしの天職なんだ!
「ところで…」
煙草を灰皿に押し付けながらナツコが美春に質問してきた。
「あなた、大手アパレルの勤務よね、うちは有限会社で個人事業だからお給料は安いわよ」
「こんな仕事は採算無視で、好きじゃなきゃやってけないのが本音のところ」
そう言ってふっと笑う。
「生活もあるでしょうし、金銭的な問題は大丈夫なの?」
「金銭面は大丈夫です、生活を切り詰めます!」
美春は即答した。
”生活を切り詰める”というそのものずばりの表現に「片桐さんは率直なひとね」とナツコは笑った。
美春と同様、ナツコは回りくどい表現を嫌がるタイプの女性のようだ。
『この女性とわたしはうまがあう』
美春のその直感が、これからの仕事の未来にさらに希望を抱かせた。
『まずは今の会社と退職日の相談をして、折り合いがついたら連絡をちょうだい』
ナツコは携帯電話の番号と個人のメールアドレスが印刷された名刺を渡してくれた。
その名刺を大事にバッグにしまいながら、美春は恵比寿の個展会場を後にした。
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たった10分程度のやりとりで、会社を辞めて響ナツコのアシスタントとして働くことが決まってしまった。
しかも、衝動的に口走ってしまった、たったひと言によって。
美春がこの展開に呆然としても仕方がないことだろう。
ところが美春の心の中で予想外の化学反応が起こりはじめた。
『ナチュラリスト』のMD昇格への未練が心からあっという間に消えてしまったのだ。
自分でも驚くくらいあっさりと、今の会社を辞める覚悟も一瞬で決まった。
それどころか、響ナツコのアシスタントという新しい未来に希望さえ見出している。
不思議な縁がある…。
職業としてジュエリーの世界に転身するために、わたしは今日個展に足を運んだんだ。
アパレル業界は当然大好きだったけれど、でもきっとジュエリーがわたしの天職なんだ!
「ところで…」
煙草を灰皿に押し付けながらナツコが美春に質問してきた。
「あなた、大手アパレルの勤務よね、うちは有限会社で個人事業だからお給料は安いわよ」
「こんな仕事は採算無視で、好きじゃなきゃやってけないのが本音のところ」
そう言ってふっと笑う。
「生活もあるでしょうし、金銭的な問題は大丈夫なの?」
「金銭面は大丈夫です、生活を切り詰めます!」
美春は即答した。
”生活を切り詰める”というそのものずばりの表現に「片桐さんは率直なひとね」とナツコは笑った。
美春と同様、ナツコは回りくどい表現を嫌がるタイプの女性のようだ。
『この女性とわたしはうまがあう』
美春のその直感が、これからの仕事の未来にさらに希望を抱かせた。
『まずは今の会社と退職日の相談をして、折り合いがついたら連絡をちょうだい』
ナツコは携帯電話の番号と個人のメールアドレスが印刷された名刺を渡してくれた。
その名刺を大事にバッグにしまいながら、美春は恵比寿の個展会場を後にした。
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