クリスマス商戦。束の間の休息 : MIHARUアラウンド(転換期)

クリスマス商戦。束の間の休息

「さすが天野さん、そうなんですよ!製作キットでこのクオリティはすごいですよね!」

仕事の目線になって天野は質問を重ねた。
「片桐さんの着けてるネックレスで値段はいくら?」
「これで16800円です」
「自分で作るとはいえ、これだけボリュームのある天然石を使ってこのレベルで16800円かあ…安いね」
美春は”うんうん”とうなずいた。
「そうなんです、伊勢丹のショーケースに既製品として並ぶと軽く6〜7万はするデザインですよね」

天野はWEB画面上の響ナツコのジュエリーを見つめながら”うーん”とつぶやいた。
「わたしもネットでこの人の製作キットを購入するから片桐さんが作ってよ」
「片桐さんと違って手作業って苦手なんだよねーわたし」そして手をすり合わせて美春に目配せした。
「えーっ…自分で作ればいいのにー、仕方ないなあ作りますよお」
普段は気が強いくせに、頼まれると嫌と言えない性格の美春だった。
「ありがとー!」と大喜びして、天野は早速『製作キット』を物色しはじめた。

― イヤリング、ピアス、リング、ネックレス、ブレスレット ―
100点以上あるアイテムを物色しながら「どれにしようか」ふたりでわいわいと迷いながら選ぶ。

そんな風にふたりではしゃいでいる最中にも、クリスマス商戦の数字がふと美春の頭をかすめ我に返る。
おそらく天野だって同じような気持ちだろう。
売上げ的には幸先のよいスタートを切った『ナチュラリスト』ではあるが予断は許さない。
 ”クリスマス商戦””売上げ””数字”
螺旋のように駆け巡るこのキーワードを、美春と天野は無理やり奥にしまいこんではしゃいでいる。

美春と天野と西条の努力の成果が問われるこれから約1ヶ月続く売上げの戦い…精神的緊張…。
だから美春と天野は今この瞬間をはしゃぐ。

この無邪気に存在する時間が、ふたりにとって束の間の戦士の休息だった。

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