美春の驚きと岡の考え : MIHARUアラウンド(転換期)

美春の驚きと岡の考え

フロアに戻ると、仕事が落ち着いたのか天野が帰り仕度をはじめていた。

『瀬戸くんのいう”責任”の定義とは?』
『ブランドが立ち上がって2年、僕としては君に責任の執行猶予期間を充分与えたつもりだけど?』

美春はつい先ほどの秋山と瀬戸のやりとりを思い出しながら天野の顔をじっと見た。
天野は美春の視線にたじろきながら「な、なに?」とつぶやいた。
「いや…天野さんいつ見てもお洒落で美人だと思って」
美春はさらに天野をじっと見た。
「天野さん…、わたしまだまだ子供だね」
美春が天野にそう言うと「わたし片桐さんのこと大人と思ったこと一度もないよ、直情型だし、はらはらする」と切り返された。
「あー、天野さんひどーい!わたしは天野さんのことほめたのにー!」

美春と天野はじゃれあいはしゃぎながら会社を後にした。


『金魚』に到着すると、すでに岡が飲み始めていた。
美春の姿が視界に入ると席に手招きする。

先週健史と『金魚』にきたばかりで立て続けに今日だ。
お店の手前ばつが悪いと思ったが、ウエイターもバーテンダーもとても自然に美春を迎え入れてくえた。

「片桐待ちくたびれたぞ、どうせおまえのことだ、白ワインを一本頼んでおいた」
「さすがマネージャー読みが早いですね、でも明日会社ですよ」
岡は美春のグラスに早速白ワインを注ぐ。
「明日は金曜日だから明日さえしのげば大丈夫だ」
「ふうっ、普通上司がこんな発言しますかねえ」
美春は愚痴をこぼしながらも「いただきまーす」と岡と乾杯した。

九州男子の岡と直情型の美春は、腹を割って話せるところから会社の枠を超えた酒飲み友達の感がある。
しかもショップ販売員時代から目をかけてくれて、アシスタントMDにも抜擢してもらった。
そんな岡に報いるためにも今度の企画はぜひ成功させたい。

「マネージャー、びっくりしましたよ販促会議の秋山商品部長の決断」
「どうせ受け入れてもらえるわけないしーと、かなりやけっぱちに発言したんで正直目が点になりました」
美春の発言に岡は苦笑した。
「わたしたちとしては大喜びですが、今までの秋山商品部長の行動パターンから想像ができないというか…ちょっと読めませんでしたね」

「おれは想像できたぞ」
美春の率直な感想を途中で遮り、岡がそう言い放った。

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