衝撃の出会い。アーティスト『響ナツコ』 : MIHARUアラウンド(転換期)

衝撃の出会い。アーティスト『響ナツコ』

「うわあぁっすごい!興奮する!」
美春は子供のように無邪気にはしゃいだ。
絢爛豪華な色の洪水に圧倒されて、麻生もひたすらぽかんと会場を見入っていた。

「お互いじっくりと見たいから、ここからは別行動にしよう、1時間後に待ち合わせ」
そう提案して、ふたりは催事場で別行動を開始した。
システムエンジニアという職人気質とビーズのマニアックな世界は共通項があるのだろうか。
先ほどの寡黙モードはいったいどこへやら、意外なことに麻生は嬉々として会場を巡りはじめた。
会場は女性ばかりだったが、おそらくそんなことは眼中にないだろう。

作家ごとにコーナーが分かれているひとつひとつの作品を美春は丹年に眺めた。
さすが日本の代表作家の集まり、どの作品も見ごたえのあるものばかりだった。
オブジェもあればバッグもある、ネックレスやイヤリングなどの装身具も。
どの作品も、高度な技術面には目を見張るものがあり、想像を超える濃厚な世界だった。
「いったいこのネックレス、どうやって製作してるんだろう?」
複雑な製作工程を想像しながら、ガラスケースに飾られた作品を、美春は時がたつのも忘れて眺めていた。

会場も半分以上をまわり、ふと視線をむけたそのとき、美春に衝撃が走った。

足の動きがぴたりと止まり、次の瞬間、美春の体の中の時計の針もぴたりと止まった。
会場の人びとの流れがスローモーションのように映る。
美春の中で、周囲の雑音が波がひくように遠のいていくを感じる。
静けさの中、孤高のようにその作品が存在している。

『アーティスト名 響ナツコ』

美春は『響ナツコ』の作品の前でしばらく立ち尽くした。

かなり大きな天然石を、信じられないほどふんだんに豪快に使ったネックレス。
日本人が苦手に感じるような複雑で難しい色彩も『響ナツコ』の力技でねじ伏せられている。
野暮ぎりぎりの線を洗練に昇華させるセンス。
”ミリアムハスケル”のコスチュームジュエリーのように基本はクラシック。
でもクラシックの中に、モダンエッセンスとアバンギャルトな佇まいが漂い、少しエスニックな香りもした。
日本人離れしたスケール、そして新しさを感じさせる作品。
それが響ナツコの作品だった。

10点ほど彼女の作品が展示されていたが、それらの全てが限りなくクオリティが高く、会場内でも突出していた。

こんなアーティストが存在するんだ!響ナツコさんのデザインの前ではわたしが作るアクセサリーなんてただのおもちゃだ…このひとはすごい!
この人の作品をもっともっと見てみたい!本人に会ってみたい!

美春の心を感動と興奮が支配した。

BACK HOME  NEXT