応募と採用の決断 : MIHARUアラウンド(転換期)

応募と採用の決断

「ナツコさん!わたしをアシスタントにしてください!」

『えっなに言ってるのわたし!?』
思わず口走ってしまった自分の発言に美春自身が驚いていた。

先日副社長の松沢から重役室に呼び出されて、MD昇進への内示をもらったばかりだ。
明日正式に辞令が降りて、12月15日から就任するように伝えられている。
”アシスタントにしてください”だなんて、まるで今の会社を辞めてもいいような発言じゃないか。

響ナツコのアシスタントになりたいと意識したことなど一度もない。
…なのに本人を目の前にした途端、思わず口走っていた…。

「片桐さん…でしたよね、今はどんなお仕事をなさってるの?」
ナツコは別段驚いた風でもなく、シンプルに美春のセリフを受け止めた。

「アパレル会社でMD業務に携わっています、趣味はジュエリー製作です」
美春はそう答えて買い物袋を抱える手に力をこめた。
「ふーん…」そう相槌を打ちながら美春が着けている”ヴネッサ”を物色する。
ほんの数分なのに、美春にはとても長い時間に感じた。
「今日着ているニットワンピースとても素敵ね」
美春のワンピースに視線を落としながら、ナツコは新しく煙草に火をつけた。
「ネックレスもあなたに似合ってる、上手に着けてくれてホントにうれしい」
煙がゆらゆらと立ちのぼっていく。
ナツコは無言のまま煙の行方を眺めている。

「わかりました、アシスタントとして採用します」

「えっ!?」
ナツコの返事に美春は耳を疑った。
自分からアシスタント希望の発言をしたにもかかわらず、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
ナツコは淀みなく言葉を続けた。
「業務が増えてきてもうてんてこ舞い、もうひとりスタッフを採用しようかどうか悩んでる最中だったの」
「あなたセンスがいいし、何よりもタイミングが良かった」

「タイミングも縁よね、わたし縁は大事にしたい性分だから」
ナツコは静かに微笑んだ。
さざ波のような、ノーメークでも充分豊かな微笑みだった。

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