バイヤーのプライドと現場の意地 : MIHARUアラウンド(転換期)

バイヤーのプライドと現場の意地

天野と西条が販促会議の行われる会議室に向かうために席を立つタイミングと同時に、瀬戸がフロアに戻ってきた。
瀬戸は机にむかい、黙々と資料の準備をはじめた。

会議室にむかうために美春と天野と西条が瀬戸の横をすり抜けたその時。
「片桐さん」瀬戸は静かに美春を呼び止めた。
「はい、何でしょうか?」美春は振り返る。

瀬戸は目の表情を動かさず、口角だけ上げて微笑みながら美春を見つめた。

「今日はお手柔らかに頼みますよ、前回のような無責任な発言は勘弁してくださいね」
瀬戸の辛辣な言葉に天野と西条はぎょっとして顔を見合わせた。
美春も一瞬戦慄が走り言葉を失ったが、すぐさま気持ちを立て直した。
「瀬戸バイヤー、あれはわたしがしゃべってるんではなく、口が勝手にしゃべってるんです」
瀬戸の表情がこわばった。
「今日も口が勝手にしゃべったら許してくださいね、ではのちほど」
瀬戸を一瞥して美春は廊下に出た。

”瀬戸バイヤーめそう来たか”

瀬戸は先月の販促会議での美春の発言をけっして許していたわけではなく、感情を隠していただけだった。
瀬戸の辛辣な言葉に美春はふつふつと闘志が湧いた。
「わたしは現場からの叩き上げ、嫌なお客様も死ぬほどいた、でもどんな状況も切り抜けてきた」
”だから負けるもんか”美春は強くそう自分の心に言い聞かせ会議室にむかった。


『ナチュラリスト』女性陣の待ち受ける中、秋山商品部長と岡マネージャーが会議室に登場した。
着席する瞬間、岡がちらっと美春の存在を確認したのは「前回のような粗相をするなよ」との合図かもしれない。
美春は心の中で十字を切って岡に懺悔した。

― だとしたら、もう遅いです。
岡マネージャー、片桐美春はまたまたやってしまいました。
つい先ほど瀬戸バイヤーに啖呵をきったばかりです。
どうぞお許しくださいアーメン ―

例の如く『ナチュラリスト』各店の売り上げ報告から会議は始まった。

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