ダルマと総務課長の悲劇

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○○運送の総務課長に起こった悲劇です。

ダルマとは「七転び八起き」といいますが、商売で縁起をかつぐ時のマストアイテムです。
○○運送では、毎年暮れと正月明けにダルマを使って祈願祭(目入れ式)を行う慣習があります。
祈願祭(目入れ式)とはどんな儀式かと言いますと…。

まず正月明けに「商売繁盛、安全第一」への縁起をかついでダルマの目に片目を入れます。
ダルマのおかげで今年も無事に商売ができた、その感謝の念をこめて年の暮れに片目のだるまに両目を入れるのです。
つまりダルマには1年を通してお世話になっているというわけです。

総務課長は、暮れも押し詰まった12月半ば、怒ると怖いワンマン社長から命じられて、ダルマを発注しました。
発注先は群馬県の全国からダルマの注文が殺到するダルマの名産地です。

群馬県から12月29日に大きな箱が届きました。
注文したダルマが入っている箱でした。
総務課長はダルマが入った箱を、正月明けに式典を執り行う大会議室に運び入れ保管しました。

年は明けて初出の日、○○運送本社の社長のもとに、県内各営業所から、所長や支店長が大集合しました。
会議室ににおいて、、始業式が厳かにはじまりました。
社訓の唱和、社長の年頭の訓示につづき、いよいよダルマの目入れ式がはじまります。
去年お世話になった両目が入ったダルマの横に、これからお世話になるダルマの大きな箱を、総務担当の係長と若手社員たちが運びこんできました。
ダルマが入った箱を開封し、満を持して注文したダルマを取り出したところ…。

会場が大きくざわめきました。
総務課長はわが目を疑い、次の瞬間意識を失いかけました。
なんと、今年の商いを祈願するはずの新しいダルマが、去年のダルマに比べて、かなり小さかったのです。
ダルマの大きさは一度大きくしたら迂闊には小さくはできません。
もしダルマを小さくした年に、業績が悪かったり事故がおきたりすると、縁起もののダルマに不幸のジンクスが生まれてしまうからです。

「総務課長〜っ!」社長の怒鳴り声が聞こえたとき、総務課長はダルマにすがり土下座をしていました。
ダルマとは「七転び八起き」のありがたいものなのですが、総務課長にとっては命取のアイテムになりました。

納品には手違いがつき物。発注ミスであったり、連絡ミスであったり。
現物を確認するまでは決して安心してはいけません。
それが大事なものであればあるほど・・
あとでミスをした人間にクレームをつけることは出来ます。
しかし、大事な場面で対応しなくてはならなくなるのは誰でもない自分です。

ダルマのトラブルを越えて、○○運送の総務課長のその後のご武運をお祈りいたします。