高学歴の契約社員と占い師

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22才のわたしは、契約社員として○○電機の営業事務の仕事に就いています。
営業事務は部署の補佐的な仕事がほとんどです。
おもしろい仕事ではありませんが、安定したお給料と、男性が多い職場ゆえお姫さま気分でいられるところが気に入っています。

そんな○○電機の職場に、前川さんというひとりの女性が、ある日契約社員として入ってきました。
上智大学卒業という高学歴の彼女が、なぜ契約社員としてしかも営業事務の仕事で○○電機に入ってきたのか…。

当初、職場全員が真偽についてうわさしたものです。 24才の彼女はぽっちゃり気味で、おとなしそうで、髪の毛を腰の位置まで伸ばしています。
内気だけど少しきつい性格で、ヘビーメタルが好きで、以前は漫画家を目指していて、今はオカルトや占いにかなりはまっています。
マニアックなキャラクターなので、前川さんはあまり男性受けするタイプではありませんでした。
その現実は前川さん自身も受け止めていたようです。

漫画家といえば、実はわたしも少女時代本気で目指したのですが、才能がなくてあきらめたのでした。
実はわたしは占いも大好きで、本屋で手相占いの本を長時間読みふける「隠れオタク」なのです。
漫画と占い…、わたしたちは自然に意気投合し、職場帰りにふたりで居酒屋に足を運び、漫画と占い談義に花を咲かせました。

前川さんにはひとつ問題があったのです。
なぜかたまーに超エキセントリックになってしまうのです。
感情がたかぶり泣いたりわめいたり怒ったり…、職場のみんなは唖然としてオロオロするばかりです。
得意の手相占いで、昼休みに職場の女性が彼女のまわりに集まったりと、自分の居場所も作ってはいたのですが。

奇異の目で見られることで、彼女にとって職場の居心地が悪くなってきたのでしょう。
時おり退職をほのめかすようになりました。

そしてとうとう前川さんが退職を決行したその日…。
○○電機は、部長のデスクが社員と同じフロアにあり、仕切られていません。
前川さんと部長の退職のやりとりはわたしたちの目の前で繰り広げられました。

「今日限りで退職したいんですが」
「退職は引きとめはしないが退職理由だけ教えてもらえないか、理由はまさかとは思うが…」
部長は疑心暗鬼の目で前川さんにそう言いました。
「占い師を目指すために占い学校に行きます」
と、前川さんは即答しました。

「占い師とは…まさかと思ったが…あの上智大を卒業してまさか占い師…」
宇宙人との未知との遭遇のように、部長は前川さんを驚き見ています。
そして前川さんの退職は受理され、彼女は○○電機を去っていくこととなったのです。

退職して1ヶ月がたったころ、前川さんからわたしの携帯にメールがありました。
「占い学校に通うにもお金がいるから本屋のバイトの面接を受けたんだけど、履歴書に上智大卒と記入するとなぜか”人格に問題があるのでは”と思われるから最終学歴は高卒にしようかな」
メールを読み終えると、わたしは携帯をぱたんと閉じました。

占いによると今年は”大殺界”なので占い学校は来年から通うつもりだそうです。
前川さんのこの価値観は「○○電機」の部長さんには一生理解できないでしょう。
宇宙人との未知との遭遇のように驚き見開いた部長の表情がくっきりと脳裏に浮かびます。