団塊世代のサラリーマンとスナック

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25歳の由紀さんは、住んでいる駅の近くにある「思い出さがし」というスナックで働いています
由紀さんの実家は一人暮らしの住まいから2駅離れたところです。
もともとは広告代理店で営業事務お仕事をしていた由紀さんですが、ある日いきなり違う経験がしたくなって退職しました。

カラオケ自慢だったので、スナック勤務にあまり抵抗がありませんでした。
「カラオケの練習もできてお給料ももらえる、一石二鳥じゃない」
スナック勤務はそれくらいの軽い気持ちではじめたのですが、日がたつにつれ、由紀さんファンのお客様が増えていきました。

団塊世代に人気のある「思い出さがし」というこのスナックは、夜の9時ともなれば連日たくさんのサラリーマンで賑わっています。
そして団塊世代のお客さまは、25歳の由紀さんにとって父親に近い年齢でもあるのです。

スナックという場所は、サラリーマンの本当の姿をまざまざと見せつける場所です。
そして団塊世代のサラリーマンは値切り上手です。
由紀さんの前で、躊躇ない値段交渉をママとやり取りしています。
その駆け引きは、優秀なビジネスマンのようでもあり、大阪の商人のようにもみえます。

団塊世代のサラリーマンは、どんなに値切り倒そうとも、使ったお金の分はとことん楽しみ尽くします。 由紀さんはそんな団塊世代の彼らがけっして嫌いではありません。
スナックという仮想空間で日常の垢やしがらみを落とし、明日になればきりっとネクタイを締めていざ戦場へと向かうのです。
父親もこんな風に日頃ストレスをかかえ、闘っているのだろう…そんな風に団塊世代を心でねぎらったりもします。

「由紀ちゃんチークダンス踊ろう!チーク!」
酔いも佳境になれば、彼らからチークダンスのリクエストの嵐です。
その都度お尻を触られますが、こんなことで生きる糧になるのなら安いもの…と聖母のような気持ちになります。

12時になり「思い出さがし」が営業終了したあと、ママに誘われお店からひと駅先のスナック「ママりんご」に足をはこびました。
「ママりんご」は深夜まで営業しています。
日付が変わっても「ママりんご」はにぎわっていました。

定年退職の仲間の送別会、その3次会の流れで団塊世代のサラリーマンがなだれこんできたようです。
ホステスさんとチークダンスを踊りまくっています。
やはりダンスとは名ばかりでお尻を触っています。
団塊世代のお客さまは父親に近い年齢でもあるのです。

…チークダンスとは名ばかりでお尻を触っていた団塊世代のサラリーマンは、…なんと父親本人でした…。

由紀さんは実家から2駅先のスナックで働いているのです。
いつかこんな日がきてもなにも不思議はないのでした。