こんな上司は嫌だ!仕事の責任の行方

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大西課長は、○○工業福岡支店に勤務するサラリーマンです。

2年前に転勤して以来、福岡の住み心地がとても気に入っています。
食べ物はおいしい、都会で交通手段が発達している、少し離れれば海も山もある、人が優しいなど良いことづくめです。

そんな福岡ライフに水を差すのが、彼の上司である支店長の存在です。
支店長は”パワーハラスメント”を絵に描いたような人です。 たとえどんな理由があろうとも、自分の思いどおりに進まないと部下を呼びつけ怒鳴り立てる、典型的なワンマン支店長です。

支店長は、女性社員からの自分の評判はとても気になるようで、まるで別人になります。
大西課長や他の男性社員をののしる時の支店長はどこへやら、女性社員の前で相好を崩しニコニコ得意話をするという変わりようです。
大西課長は支店長のこういった二面性がいやでいやで堪りません。
つい先日もこんなことがありました。

新製品モデルについて、本社から各支店の意見を求められた時のことです。
「大西課長、キミが文章を書いてくれたまえ、内容はわたしが確認する」との支店長の指示がありました。

大西課長は支店長のゴーストライターとして”本社が提示したモデルはすばらしく、九州の消費者にも受け入れられるスタイルである”という新製品モデルを肯定した内容の報告書をまとめました。
そして支店長に提出したところ「なんだこれは!おまえは本社のいいなりか!こんなデザイン博多で受け入れられるわけないだろう」と、罵声を浴びました。
支店長は続けざま「なんだこのオベンチャラは!九州の代表なんだから、本音の意見ををしっかり本社にぶつけるんだ!そんなこともわからないのか!ばか!」と、大西課長をののしりました。

大西課長は「ようし、それなら」と、本社モデルに対する批判を片っ端から羅列し、このような商品は福岡では受け入れられないという結論の報告書を書きあげ、支店長に提出したのです。
支店長は報告書を一瞥し、「ふん、言われて書くのは誰でもできるぞ、もっと勉強しろ」といいながら、これでいいと報告書を大西課長にもどしました。

2週間後、本社から新商品開発部長が福岡にやってきて、新製品モデルの説明会が開催されました。
新商品開発部長が、忌憚のない意見を自由に述べてくださいと促します。
隣に座る支店長を横目に、大西課長は商品を否定する意見を一生懸命発表しました。

ひと通り聞き終えると新商品開発部長は言いました。
「今回の新製品モデルは、本社の企画部が社運をかけて製品化したもので、開発担当の副社長からもいい出来だとのお墨付きをいただいている」そのセリフに支店長の顔色がかわりました。
そして「否定的な意見が出たのは全国の中で福岡だけだが、戻って副社長に報告しておくよ」と、新商品開発部長は言いました。

次の瞬間、大西課長にとって信じられないことが起こったのです。
支店長は顔を真赤にしながら「おい大西課長、ダメだよこんな重要な場で個人の意見を勝手に言っちゃ!」と、大西課長を皆の前で叱りました。
さらに…「大西課長キミか、支店長のわたしに黙って新製品を否定する報告書を勝手に本社に挙げたのは!どこからみても今回のモデルはよくできてるじゃないか」
そしてさらに…「いやあ困るんですよね部長ー、この店には支店長に黙って勝手に本社に文書を出すような勘違い者が多くて」 大西課長は絶句しました。

怒りがふつふつと沸いてきて「あんたの指示じゃないか…」と喉まで出かかったその刹那、かわいい我が子の顔が浮かんだので言葉を飲み込みました。
あとでわかったことですが、支店長は報告書の検印欄に支店長印を押さずに本社に送っていたのでした。
大西課長に過激な報告書を書かせながらも支店長印さえ押さなければ、万が一の場合、自分は関係ありませんよという本社への保身を図れます。
いざとなれば「大西課長がわたしを無視して勝手に本社に報告書を提出した」という大義名分がたつわけです。

大西課長、挫けず福岡ライフを満喫してください。
いずれそのうち転勤になります!