契約社員と正社員そして派遣社員

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表参道の路地を入ったところに、海外のインポート物を扱う素敵なジュエリーショップがありました。
そのショップの名前は「ダフネ」。
29歳の時に、わたしはダフネの販売員として採用されました

ショップは母体の大きい会社が経営しており、呉服や雑貨、衣料や宝飾など女性のライフワーク関係を手広く運営しています。
わたしはショップ勤務ですが、その親会社から”ダフネ専属”契約社員として採用されたことになります。

ダフネの店長は28歳の女性で、水沢香織さんといいました。
大学卒業後、親会社正社員として採用され、さまざな部署に異動したあと新店のダフネに店長として配属されたのでした。

ダフネのショップスタッフ6人は全員が契約社員です。
そのお給料はなんと総支給15万8千円…さまざまなものを天引きすると手取りは13万円ちょっとになります。
家賃と高熱費と食費しか残らない金額なので、わたしを含めひとり暮らし組はお金のやり繰りに苦労しました。
実家組が気楽に食べる1000円のランチがわたしたちには死活問題で、あの当時のことは今も忘れられません。

正社員で店長の水沢さんは、28歳にして30万円以上のお給料をいただいていました。
しかも正社員にはきちんとしたボーナスが年2回支給されますが、契約社員には年2回、3万円の寸志しか支給されません。

水沢さんが「今度のボーナスで大型テレビ買うつもり」などと無邪気な発言をするたびに、なんとデリカシーのない人だろう…と腹がたったものでした。
店長という管理責任の重さは承知してますが、基本的には ”お客様にジュエリーを売る”という同じ業務に携わっています。
契約社員というだけで、正社員とのここまでの待遇差は果たして?とスタッフ一同怒り心頭でした。

扱うジュエリーが素敵なので、そうは言ってもしばらくみんな頑張っていました。
しかし、待遇に耐えきれなくなったスタッフが、急に2人辞めることになりました。

店長含め7人しかいない職場で2人辞めるとシフトが回らなくなります。
新しいスタッフの採用が決まるまで、本社の意向で”派遣社員”をショップに呼ぶことになりました。

そして、この派遣社員の存在が、契約社員のみんなの怒りを爆発させることになったのです。
派遣社員の村瀬さんがオープン前に初出勤してきた時、スタッフ一同、目を疑いました。
そこには、表参道のインポートジュエリーショップとはかけ離れた、小柄な50代に近い女性が立っていたのです。

村瀬さんは、宝飾の展示即売会の販売員を生業としてきた人でした。
販売員としての力量はあるのでしょうが、表参道のショップスタッフに到底見えないのです。

2週間ほどショップで働いてくれたのですが、やはり皆無といっていいほど商品を売ることができませんでした。
ある意味村瀬さんもかわいそうだったのです。

”ダフネ”で働く際、派遣社員として村瀬さんがいただくお給料を聞いたところ、なんと時給1500円という答えでした。
正社員の水沢さんのお給料が30万円以上…派遣社員の村瀬さんの時給が1500円…わたしたちのお給料は15万8千円…。
契約社員みんなの怒りがとうとう爆発しました。

契約社員へのあまりにも無慈悲な扱いに、親会社に直談判しようということになりました。
親会社はわたしたち契約社員の訴えに耳は傾けてくれましたが、結局お給料は改善されませんでした。

そんな雇用状態で職場がうまくいくわけがありません。
しだいに1人辞め、2人辞め、わたしもそのうち辞めました。
そのインポートジュエリーショップ”ダフネ”は、その後撤退してしまったそうです。

会社にとってそこで働くスタッフは大切な財産でもあります。
経費を抑えて利益を上げるのは必要不可欠なことです。
しかし、そればかりに気をとられ人件費を圧縮し、社員を育てるということに目を向けなかった結果かもしれませんね。
会社は利益を上げなくては成り立ちません。
しかし、その利益を生み出しているのはそこで働くスタッフ、人間なのだということを考えてみるべきですね。

もうひとつ、同じ職場で働いてる以上、自分の給料は人に話すべきではありません。
そこには必ず不満というマイナス要素が持ち上がります。人より良ければ妬みを生み、悪ければ仕事への意欲を失いかねません。