それでもわたしはパチンコが趣味

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パチンコが趣味の育美さんは現在33歳です。
パチンコをやっていると今でも15年前のあの事を思い出しますそれは…。

育美さんは18歳で宮崎県から上京してきました。
ファッションの専門学校に通いながらバイトをしたり恋したり、と10代の最後の2年間を満喫していました。
しかし、気づけば遊びが中心の毎日になってしまい、結局学校を中退しました。
しかも大好きだったボーイフレンドとの破局を迎え、育美さんは若いなりにどん底の気持ちになりました。

育美さんは20歳の誕生日を迎えました。
夏の入道雲を見上げながら野球部の生徒のランニング風景を眺めていました。
育美さんの脳裏になぜか「更生」…という文字が浮かびました。
「私はこのままではだめだ、一念発起せねば!」

まずは先立つものがいる…それはお金。
大型パチンコ店の住み込み定員の募集がある求人誌に掲載されていました。
パチンコ店の住み込み定員として半年契約で寮費は無料です。
契約期間終了後は10万円のご祝儀がもらえるところも魅力でした。

パチンコ店の勤務地は東京のさい果ての青梅市です。
パチンコ店で働くために育美さんはアパートを引き払い、青梅市に引っ越しました。
青梅の広い空においしい空気、寮費は無料だし、お金もたまる、契約終了後には10万円。
「わたし、これから人生をやりなおすの」
でもすぐに、人生はそんなに簡単にやりなおせないことを思い知るのです。

パチンコ店に勤務して一週間が経った頃、同じように契約社員を大人数集めて研修が行われました。
育美さんを面接してくれた紳士的な40代の男性が研修指導員として登場しました。
メガネが知的な印象の人です。
名札には「橋本」と書いてあります。
育美さんに気が付くと「おっがんばってるか!」などと橋本さんは声をかけてくれました。
育美さんはいっぱしの社会人の気持ちを味わっていました、そのあとの悪夢も知らず。

パチンコ店の研修がはじまると、橋本さんはおもむろに…黒板をたたきました!
「パチンコ店は氷河期に突入している!甘い根性のやつはいらん!今日は精神力の特訓をする!」
研修生全員、凍り付きました。
「おれの言うとおりに叫べ!はじめは全員で!最後はみんなの前で各自ひとりひとりで叫べ!」
パチンコ店の研修で、よもやこの展開は予測しません…。

「ではいくぞ!闘志無きものは去れ―!!接客に限界はなーい!!最後に笑うのは自分だー!!」
えんえん30分叫び続け、しかも最後は大勢の前でひとりで叫ばねばなりません。
あまりもの恥ずかしさに耐えきれず、泣き出す女の子も当然いました。
育美さんは腹を据えて思う存分叫びましたが…今後は無理かも?と内心思っていました。
パチンコ店の店長たちは、売上が悪いと橋本さんにビンタを張られていました。

それから3日後、育美さんはきれいな星空の下、夜逃げを敢行しました。
深夜に友達の軽トラックに乗り込んで、青梅の広大な土地をスタコラと後にしました。
パチンコ店を夜逃げしたものの、現在ではパチンコが趣味の育美さんです。