市議会員選挙の電話オペレーター

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市議会員選挙のポスターが貼りだされるたびに過去を思い出します。
あれはわたしが19才のことでした。

「くれよん」というコンパニオン派遣会社に登録していたのですが、ある日代表の美佐さんから仕事の依頼が舞い込みました。
「昼間は市議会員選挙のうぐいす嬢、夕方からは選挙の電話オペレーターなんだけどどう?」
市議会員選挙の仕事は未経験でしたが、満足いく時給だったのでわたしはすぐに承諾しました。
昼間は○○議員と選挙カーに同乗し、白い手袋をはめて「○○議員をお願いいたしまーす」と、手をふって叫びます。

そして夜からオペレーターです。
この市議会員選挙において、○○さんは苦戦を強いられていました。
事務所の雰囲気はぴりぴりしています。

日が暮れればプレハブの事務所に戻り、わたしたちは後援会のお姉さまがたが作った美味しいご飯をかきこみます。
市議会員選にとってここからがラストスパートの仕事です。
まるで人気バンドのコンサートチケットを取るがごとく、絶え間なく演説電話をかけ続けます。
「どうか、どうか○○議員に清き一票をよろしくおねがいいたします!」
政治とは何たるかもわからぬまま、有権者に向かって3時間わたしは同じフレーズを口にしました。

市議会員選挙の仕事の二日目、わたしに異変が起こりました。
午前中は相変わらず白い手袋のうぐいす嬢です。
そして美味なるご飯をかきこんだその夜…。
「どうか、どうか○○議員に清き一票をよろしくおねがいいたします!」と電話口で叫ぶその刹那、わたしは”ぷぷぷっ”と噴き出してしまいました。

いちど噴き出してしまうともう止まりません。
”ぷぷぷ”はしだいに勢いを増し、”あっはっは”にかわりました。

いったいなにがそんなに可笑しかったの?
市議会員選挙におけるみなさんのシリアスさが、若いわたしには滑稽に映ったのかもしれません…今となれば。

しかし隣に座っているオペレーターのお姉さんは顔面蒼白です。
「この市議会員選挙苦戦してるから、そんなことしたらまじで殺されるよ!笑いこらえなよ!」

わたしは未熟でした。
すぐさま階下に呼び出され、○○議員に解雇を伝えられました。
19才のわたしは、「なんでわたしっていつもこうなんだろう」と、自分を持て余しながらとぼとぼとアパートに帰りました。