頭痛の種の販売促進会議 : MIHARUアラウンド

頭痛の種の販売促進会議

昼下がりの午後、秋のまどろむ光が窓辺からさしこんでいる。

トレンドファッションでばっちり決めた社の女性たちは、今日が決戦とばかり本社の会議室を陣取っていた。
バイヤーの瀬戸さん、商品企画の天野さん、MDの西条さん、そしてアシスタントMDの片桐美春。
アパレル業界で活躍するには、服の着こなしセンスも才能のひとつだと美春は常々話している。
先週自分で製作したピンク珊瑚のネックレスを、今日はグレーのスエットパーカーとデニムのミニスカートにあわせた。
仕上げにパイソン柄のピンヒールを選ぶことで、スエットとデニムをシックカジュアルに昇華させるのは美春ならではの持ち味だ。

美春は自身のことを『ファッション界の食いしん坊』と形容している。
古着もカジュアルも、フレンチテイストもアバンギャルトもプレタポルテもオートクチュールもギャル風も。
ボーダーTシャツもコンサバテイストもパンクテイストも。
そしてひいてはジュエリーアクセサリーやその他の小物も。
数えればきりがない、女性を彩るすべての要素が好きだ。
これらのどの要素にも、線引きや取捨選択などありえない。
「この飽くなき食いしん坊ぶりとミーハー魂なくしてファッションは語れない」これは美春の仕事におけるポリシーといってもいい。

各店舗のショップ店長もこの販促会議のために本社に足を運んでいる。
仲間でありライバルでもある店長たちは、商品の売り上げや売れ筋について熱のこもった情報交換を繰り返している。

会議室の扉が開き、秋山商品部長と岡マネージャーが入ってきたので女性社員はおしゃべりをやめた。
彼らは美春がいうところの古参の男性社員”アパレル業界のサラリーマン”たちだ。
秋山と岡は女性社員たちに一瞥をくれると所定の席に座わり資料に目を通した。

美春はかれらの服装を見てひそかにため息をつく。
紺のスーツ上下に白のシャツ、センスのないネクタイ、意味不明の靴…。
時代の先端を追いかけるはずのアパレル業界の社員といったいだれが思うだろう。
肩書きを知らなければおそらく普通のサラリーマンにしか見えないに違いない。
今どき普通のサラリーマンですら茶色やグレーにペンシルストライプのスーツぐらい着ている。
シャツも黄色や水色を選んだり、ネクタイも柄の凝ったものを選んでいる。
しかもノーネクタイでカジュアルが許されている会社もざらにあるのに、わが社の上司はなぜこんな野暮な服装しかできないのだろう…。

そんな美春の心の内を知るべくもなく、まずは年間のマーチャンダイジングの確認と、各店の売り上げ報告から始まった。

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