スパークリングワインの瓶 : MIHARUアラウンド

スパークリングワインの瓶

「片桐美春ちゃんだっけ?アパレル勤務、もうすぐアラウンド30…だったよねたしか」

「よく覚えてますね、やはりわたしが魅力的な女だからかなっ!」
美春がおどけてみせると麻生は”こらっ”と美春のおでこをたたいた。
「魅力的な女性だからこんなところで飲んじゃだめってこの前注意しただろう」
「ほんとに美春ちゃんは警戒心が足りないねえ…」

「スミマセン…」と美春は背中を丸めた。

「それで、今日はどんな悩みなの?」
麻生はいつもの人懐っこい表情で笑った。

「酒を酌み交わしながら悩みを聞いてください、まあまあおひとつ」
美春は麻生にスパークリングワインを瓶まるごと押し付けた。
「どこが酒を酌み交わすだ、ラッパ飲みやんけ!ほんとにおもしろい女だなあ!」
麻生はおなかを抱えてげらげら笑った。
人懐っこい表情がさらに人懐っこくなる。

ああなんか麻生さんの笑顔って癒されるなあ…そう思いながら美春は今日の出来事を話し始めた。
「仕事への意欲と不安と焦りから会議の発言で地雷を踏んでしまったこと」
「岩間健史という同じ年齢の男性と2年間交際しているが関係がぎくしゃくしていること」
「先ほど健史に電話をかけたら冷たいリアクションが返ってきたこと」

麻生は美春の話を腕を組んで静かに聞いていた。
時おり思い出したようにスパークリングワインの瓶を持ち上げるとぐいっとラッパ飲みで喉元に運ぶ。

美春と麻生は雨の中ずっと傘もささずベンチに座りこんでいる。
雨はまたもや霧雨に変わり、麻生の短髪と草むらの緑を濡らしている。
草むらの緑に溜まった雨の雫が、葉っぱの先でつぶ状に揺れている。
霧雨のやさしさは、酔いでほてったふたりの体にはちょうどよい清涼剤の役目を果たしていた。

美春の話しを全部聞き終わると麻生はつぶやいた。
「健史くんの気持ち、おれ理解できるなあ」

自分のことを麻生に肯定してもらえると思っていた美春は驚きの目で麻生を見た。

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