美春と健史の最後の戦い? : MIHARUアラウンド

美春と健史の最後の戦い?

今日は風が強く、コートの襟を立てながら道行く人が歩いている。
風の音がが鳴るたびに美春の心もざわざわと鳴った。

現在時刻 ”6時25分”健史との待ち合わせ時間が迫ってくる。
一足早く所定の待ち合わせ場所に到着した美春は、先ほどから身づくろいを整えている。

昨夜鏡の前で悩みになやんだ結果、黒のVネックセーターと白のワイドパンツを着ることにした。
前髪もきちんとなでつけ、髪の毛はきっちり後ろでシニヨンにまとめてある。
襟ぐりの深い黒のVネックセーターにおおぶりの赤い珊瑚のピアスを合わせることで、シャープな着こなしの中に女らしさを演出したつもりだ。
ガラスに映る美春の表情は軽くこわばっている。
緊張と不安に時おりため息さえついてしまう。

「こんばんは、久しぶり」人ごみから健史が現れた。

”6時30分”とうとう健史が待ち合わせ場所にやってきてしまった。
背後を振り返ると会社帰りのスーツ姿の健史が立っている。
「ほんとにお久しぶり」美春は緊張を隠して軽く微笑んだ。

― さあこれから美春と健史の最後の小さな戦争のはじまりだ ―


ふたりは『金魚』で飲むことにした。

以前地雷を踏んだ販促会議のあとに、岡マネージャーに連れていってもらったこのバーを美春は気に入っている。
デートではないから、しっかり食事をしながら酒を飲むという感じでもないだろう。
軽くつまめればそれで充分、それがふたりの共通意見だった。
バーまではほんの数分の道のりだが、美春にはかなり苦痛な道のりになった。
それは健史も同じのようで「久しぶり」の挨拶以降会話がスムーズに運ばない。
「あの…」っと何度も会話の冒頭がかぶったり、「どうぞお先に」と会話を譲り合ったり。
そんなぎくしゃくした空気の中で店の前に到着した。

『金魚』の重い鉄製の扉をあけると、薄暗い店内が広がっている。
美春と健史は店名通りに金魚が泳ぐ、相当大きなガラス鉢の前の席に案内された。
その席は、店内で少し隠れ家的に隔離されているので、今日のふたりには持ってこいの席だった。
まずはビールとチーズの盛り合わせ、そして白ワイン一本をウエイターに注文した。

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