アラウンド30VSアラウンド40 : MIHARUアラウンド

アラウンド30VSアラウンド40

男性はけっこうお酒を飲んでいるようで、ぺらぺらとお構いなくしゃべりだした。
「こんなところでひとりで飲むなら自分の家に帰るか飲み屋にいけばいいのに、なんかあったの?」
美春は警戒心の強い猫のように男性をじっと観察しながら返事をした。
「まあなんかあったんですけど…、飲み屋とかひとりで行くと変な女に思われるし、第一ひとりじゃ間も持たないし」
美春の返事を聞いて男性はあっはっは!と声高らかに笑いだした。
「ってゆうか、草むらのベンチでひとりで飲んでるほうがよっぽど変な女と思われるよ!」

男性は目が細く、笑うと少したれ目気味でとても人懐っこい表情になる。
その表情を見て”危険な人ではなさそうだ”と、美春は少しだけ警戒心を解いた。
「どんな事情があったのかはわからないけど、可愛くて目立つからこんな場所でひとりで飲むのは絶対にやめたほうがいいよ」
男性は初対面にもかかわらず歯の浮くようなセリフを口にする。

美春はなんだかひねくれた返答をしたくなった。
「心配してくれてさらに褒めてくれてありがとうございます、でもわたし、もうすぐ”アラウンド30”ですから、そんなに商品価値ないですから」
自分で言いながら自分が悲しくなった。
ケンカして飛び出した麒麟屋が脳裏に浮かび、健史の顔も浮かんだ。
電話かメールくらいできるだろうに…美春は不覚にも涙ぐんでしまった。
美春が涙ぐんだことに男性は当惑の表情を浮かべた。

気まずい空気が流れ、静けさの中に『リンリンリンリン』とコオロギの音色が響いている。

次の瞬間男性は唐突に大きい声で自己紹介を始めた。
「僕は麻生直樹っていいます、見ての通り一般企業のサラリーマン、年齢39歳、独身、本日酔っ払い、そして来年アラウンド40ですっ!」

美春はあっけにとられ、そして思わずおなかを抱えて笑いだした。
「麻生さん、来年”アラウンド40”発言は巧いですねっ!わたしの”アラサ―発言”に引っ掛けたんですね!」
麻生と名乗る男性が照れ笑いを浮かべると、持ち味の人懐っこい表情になった。
美春はコンビニの袋をがさごそと探り、アサヒスーパードライの缶を麻生に差し出した。
「良かったら飲んでください、わたしかなりの酒豪なんです、缶ビール7本買ってきたのでお裾分けします」

美春と麻生はすっかり意気投合し、草むらのベンチでどんちゃん騒ぎがはじまった。

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