アパレル業界で生き残るには : MIHARUアラウンド

アパレル業界で生き残るには

「秋山部長、わたしはMD計画のとおりに商品仕入れを行っています」
「売れ筋商品のフォローはすでに手配済みですし、10日後には店頭に並ぶ予定です」

今日の瀬戸はプリント柄のカットソーに7分丈のパンツといういでたちだ。
プリント柄のカットソーも7分丈のパンツも、単品でみればとてもかわいい。
しかし…7分丈パンツのすそにはフリルがあしらわれ、さらに編みタイツをあわせ、パンプスにはリボンが付いている。
…プリントにフリルに編みタイツにリボン…。
こんな感性の瀬戸がバイイングするのだから、商品バランスが悪くなるのは当然だった。

予算達成で責められる本沢るりがつくづくかわいそうだと美春は思う。

美春のキャリアは、この会社のショップに、23歳でアルバイト店員として勤務したことから始まっている。
接客の仕事は美春に合っていた。
人とふれあうことが好きで、センスも良く、好奇心のかたまりの美春は、販売員として優秀な成績を収めそのうち店長に抜擢された。
店長に昇格後はショップのMDやディスプレイ、商品仕入れも一部携わり、またもや成果を収めた。
能力を買われ本社に移動することとなり、『ナチュラリスト』の立ち上げの際アシスタントMDに抜擢され、今の美春がある。
店長時代は契約社員だったが本社への移動と同時に正式に正社員として採用された。
今から2年前のことだ。
販売員からスタートした美春だからこそ、現場の気持ちも事情もよくわかる。
結論を言ってしまえば”良い物は売れるし良くないものは売れない”ただそれだけ。

アパレル業界の競争原理はシンプルだ。
販売力を問うにもやはり最低限の商品力はかかせない。
では何が”良い物”で何が”良くない物”なのか。
この判別にはセオリーも方程式も存在しない。
あらゆる角度からトレンドを研究すること、時代の空気感を敏感に読むこと、最終的には自分の感性を信じること。

大卒だけあって、瀬戸は知恵がまわるしデータ分析もできる、弁も立つ。
しかし瀬戸には感性が欠落している。
そして新卒で本社に就職しているためにショップ勤務の経験がない。
最終決戦の現場をまったく知らない、上から目線の瀬戸のバイイングには説得力がなかった。
売上げはじりじりと下降している。
こんな流れがずっと続くのであれば、おそらく『ナチュラリスト』はそのうち撤退することになるだろう。
事実、表参道の旗艦店は来春で店舗を撤収することが決まっていた。

バイヤーの瀬戸の言い分に本沢の顔色が変わった。

BACK HOME NEXT