雨の魔法 : MIHARUアラウンド

雨の魔法

水玉の傘を揺らしながら美春は歩いた。
道すがらの一軒屋のブロック塀の苔を眺めたりしながら。
足もとを見ると、落ち葉が雨によって道路の端っこにくしゃっと丸まっている。
赤いエナメルのバレエシューズが、ぱしぱしと雨の粒を弾いていた。

美春は草むらのベンチに向って歩いていた。

まもなくして美春は草むらのベンチに到着した。
そしてあたりの様子を確認すると、10分ほど何もせずその場に立ち尽くしていた。
赤いエナメルのバレエシューズが、ぱしぱしと雨の粒を弾いている。
草むらには美春以外だれもいない。
近所の猫が原っぱから姿を現し、にゃあと鳴いてまた走り去っていく。
ぽつりぽつりと目の前の道路を人が横切っていく。
お年寄りもいれば小学生の子供もいた。
草むらにたたずむ美春を一瞥するが、一様に雨の中傘を片手に家路へと急ぐ。

腕時計が3時半の針を指すまで美春はその場にたたずんでいた、特に何も起こらない。

近くのセブンイレブンでビールを購入すると、美春は草むらに再度足を運んだ。
今日選んだ銘柄もやはりアサヒスーパードライだった。
傘を差しながら美春は器用にプルトップを開けた。
さすがにこの本降りの雨の中ベンチには座れないので、ベンチの横の桜の木にもたれた姿勢でビールを飲んだ。
空を見上げ、傘の隙間からふり注ぐ雨を見ながら美春は祈った。
どうかもうしばらく雨が止みませんように、このままふり続けますように。
まるでおまじないのように、ふり注ぐ雨が魔法をかけてくれることを祈った。

電気が走るように閃いた、リビングでのあの思考感覚が美春に確信に近い気持ちを持たせている。

アルコールが心地よくまわり、美春はふんわりとした気持ちで桜の木にもたれていた。
腕時計が4時の針を指し示した。

「…もしかして美春ちゃん!?」
その声の方向に顔を上げて、美春は水玉の傘を地面におろした。
桜の木の雨露が、美春の顔をぽたぽたと濡らした。
草むらの前の道路から、傘をさした麻生がきょとんと美春の様子をうかがっていた。

”…雨が魔法をかけてくれた…!”

美春はうれしそうにつぶやいた。
「わたしが雨女じゃなくて、やっぱり麻生さんが雨男だったんだ!」

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