天然石のネックレスとピアス : MIHARUアラウンド

天然石のネックレスとピアス

10月も半ばになると世の中は暮れに向けてのカウントダウンをはじめる。
足早に道行く人が、そわそわと冬の気配を運んでいる。

オニキスと淡水パールの手作りロングネックレス、そしておそろいのピアス。
グレーのモヘアセーターと色落ちした古着のジーンズに、美春はこのロングネックレスとピアスを合わせた。
ネックレスが映えるよう、長い髪をゆるやかにアップにして、赤い口紅をポイントにしている。

「片桐さん、今日はやけにシックに決まってるじゃない、仕事のあとになにか素敵な用時でもあるの?」
商品企画の天野萌が、パソコン画面をチェックしている美春の背中を突ついてきた。

天野萌は美春と同じ年齢だ。
8月が誕生日の彼女は、美春よりも一足先にアラウンド30に突入している。
天野はかなり目立つ。
日本離れした色白の肌に少し釣りあがった大きな瞳。
ベリーショートの髪と目元を飾る印象的なほくろが、まるでフランス女優の”ジーンセバーグ”みたいに見える。
レースのトップスにファーベストをあわせ、迷彩柄のカーゴパンツでカジュアルダウンした服装もとてもこなれている。
天野は美春が刺激を受ける存在でもあり、仕事における頼もしい仲間でもあった。

美春はくるりと椅子をまわし、天野のほうに向き直った。
「べつにー、そんな大層な用事はございませんっ、お洒落はこの仕事の基本でーす」
…実は麻生と食事の約束をしていたのだが、すべて正直に話す必要はない。
健史とは最後に電話で話したきりで中途半端な状態のままだ。
まだ完全に別れたていないこんな微妙な状況下で他人に余計な情報は伝えないほうがいい。
美春は送思った。

「そんなことより見て見て、この天然石のネックレスとピアスわたしが作ったの、かわいくない!?」
天野はすかさず商品企画のプロの視線になった。
「このアクセサリーかなりレベル高いね仕上げもきれいだし、オリジナル性もあるし、これならショップにも置けるよ」
美春は胸を張った。
「でしょー、配色もデザインも全部自分で考えたんだよ!」
天野は「ふーん…」と頷きながらネックレスをまじまじと見た。
「いつも思うんだけど片桐さんってほんとこまめだよねえ、買ってきた服に自分で刺繍入れたりとか、コサージュ手作りしたりとか」
「この前つけてたピンクサンゴのネックレスも素敵だった」
天野にほめられ、うれしくて美春ははにかんだ。
「好きなんだあ手作業、だから料理やガーデニングも好き」

「不思議だよねえ、性格はどちらかといえばがさつで男前なのに…」
「なにい、聞き捨てならないですね!」
美春は天野の頭をえいっと叩いた。
天野は笑いながら突然仕事モードになった。
「でもさ、『ナチュラリスト』もこんな風な小物の比重をもっと増やして、ショップに色気や変化を出したいよね」
「商品構成に遊び心が足りないってゆうか…」言いかけて天野は口をつぐんだ。
バイヤーの瀬戸がフロアに戻ってきたからだ。

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