スパークリングワインと草むらのベンチ : MIHARUアラウンド

スパークリングワインと草むらのベンチ

今日は満月だ。
遠くで鈴虫が鳴いている。
どこかの犬が月に向かって吠える声が聴こえる。

ぱらぱらと雨がふり出した。
健史と揉める日にはなぜか雨がふっている。
わたしが雨女なのか…それとも健史が雨男なのだろうか…。

アパートから逆方向に踵を返して美春は歩き出した。
セブンイレブンで1500円程度のスパークリングワインを2本購入するとアパート周辺の草むらのベンチに座った。
草むらは先週よりももっとすすきが伸びている。
勢いよくスパークリングワインのコルクを抜くと”ポンッ”という軽快な音がした。

時計をみると10時半を回ろうとしている。
もうこんな時間だ、そんなに人通りもないだろうと、美春はスパークリングワインを瓶ごと抱えて飲んだ。
『金魚』でシャブリを2本空けているのだ、かなり酔っている。
ここまで酔うともう人目などどうでも良くなる。

飲んでるうちに泣けてきた。
健史とのさっきの電話のやり取りが美春の頭の中で何度もリフレインしている。
「仕事では地雷を踏み、男からは手痛い仕打ち…」
スパークリングワインの瓶をまるごと抱えて美春はしくしく泣き出した。
しかし泣きながらも飲み続けた。
雨はしとしと柔らかくふり続け、満月にぼんやりと霞をかけている。

「ま、まさかその姿は…!?」
聞き覚えのある声とともに、美春の目の前に見覚えある男性のシルエットが飛び込んだ。
10日前、この草むらのベンチでいっしょに騒いだ麻生だった。

「あああっ、麻生さんだあっ」美春は麻生を指差した。
麻生もやはり飲んだ帰りだった。
「おいおい、いい女がこんなところで何やってんの、しかも今日はスパークリングワインをらっぱ飲みかよ…」
美春の目にはさきほどの涙が浮かんでいる。
「わたしのこの悲しみにはビールごときじゃ間に合わないもん、もっとアルコール度数高くないと」
「肝臓直撃するくらいじゃないと足りないもんっ」
美春の目に浮かんだ涙がぽろぽろとこぼれた。

麻生は軽くため息をつき、美春の座るベンチに腰をおろした。

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