夜空の月を見上げて : MIHARUアラウンド

夜空の月を見上げて

麻生が景気づけにスパークリングワインをラッパ飲みすると、1本目の瓶が空になった。
美春は2本めの瓶のコルクをあけた。
”ポンッ”という乾いた音が草むらに響いた。

「男ってさあ、すごく単純なんだ」
麻生は美春のほうを見てにこっと笑った。
「おそらく健史くんには何の悪気もないと思うよ」
「美春ちゃんは頭の回転も早そうだし、健史くんの日常会話にいちいち意味があるように捉えるのかもしれないけど…」
「男は若いコが好きと言った件も、たぶん他人がそう言ってるから脚色せず率直に話してしまっただけだと思うよ」

麻生が健史のことをかばうので、美春は不愉快で口がとんがった。
そんな美春の表情を麻生がからかう。
「いやあふくれっ面もかわいいねえ、そんな表情が似合うのは若い証拠だ」
美春は麻生に「馬鹿にしないで」とすごんだ。
”ふんっ”とさらに口をとがらせながら2本めのスパークリングワインをラッパ飲みした。
麻生は”あちゃあ、やっちゃった”という表情をしながら頭を掻いた。

美春は瓶を抱えながら麻生に質問した。
「でも、健史って基本的に気がきかないと思いません?女性に平気で年齢の話しをしたりとか」
「そんなことがしょっちゅうだから、わたしが怒るのも無理がないと思うんです」
美春の質問に、麻生は「うーん」と言いながらあごに指を当てた。
そしてほんとうにほんとうに優しい表情で美春を見つめるとこう言った。

「健史くんは気がきかないかもしれないけど、素朴な人柄で優しいじゃないか」
「女性心理に気が回りすぎる男は、反面、人柄に裏表が多いかもしれないよ」
「そのほうがよほど美春ちゃんを苦しめるかもしれない」
「そして…」

麻生はひと呼吸いれるためにスパークリングワインを飲んだ。
「結局はふたりの人としての相性の問題ということになる」

「もし美春ちゃんが本当に健史くんを好きだったら、空気が読めないところも愛嬌という魅力として受け止めるだろう」
「健史くんよりも自分自身のこと大事だったら、彼の無頓着さや弱さを許すことができないだろう」

麻生は夜空の月を見上げて言った。
「ほんとうの意味で人を愛せるか、彼を愛せるか、結局すべてはふたりの相性の問題ということになる」

月を見上げる麻生の横顔を美春は見つめた。
葉っぱの先でつぶ状に揺れている雨の雫が、暗闇に彩られながら地面に吸い込まれていった。

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