ふりそそぐSeptember rain : MIHARUアラウンド

ふりそそぐSeptember rain

雨は完全にやんで、草むらから虫の音がきこえる。
今は9月の上旬で、少しづつ肌寒い季節を迎えようとしていた。

美春はビール缶のプルトップをあけた。
”プシュッ”という、小気味よい音が耳に聞こえてくる。
アサヒスーパードライの一缶目はものの一分で飲み干された。
美春は毎日晩酌するほどの酒好きではないものの、いざ飲めば相当強いほうだ。
はじめてお酒を飲んだ18歳のある日、赤ワイン2本をなんなく飲み干してその場にいた男性陣を驚かせたものだ。
「12月がくればわたしは30歳になる…」
美春はスーパードライのふた缶目に手を伸ばした。

アパレル会社で働く美春は30歳を目前に控え仕事で行き詰っている。
しかも今の職場で、複雑かつ深刻な局面をむかえていた。
仕事で行き詰り、男とはうまくいかない。
「アラウンド30かあ…」
ぽつりとつぶやきながら、最近お気に入りの赤いバレエシューズの足元を見つめた。
このバレエシューズはつい先日会社の社販で購入したものだ。
今日健史に会うことになっていたので、茶色のスカートにあわせて何度も家の鏡の前でコーディネイトを確認した。

美春はスーパードライの三缶目に手を伸ばした。
すると見知らぬ男性が突然目の前に現れ話しかけてきた。

「こんなところに女の人がひとりでいたら危ないよ」
30代後半とおぼしき男性で、どうも会社員のようだ。
180センチ近い長身に、髪を短く刈りそろえている。
カジュアルなジャケットにノーネクタイという服装はおそらく自由な社風なのだろう。
パソコンのバッグを手に抱えているあたり、コンピューター関連の仕事か何かと推測できる。

「はあ、この缶を飲み終わったらすぐに帰ります」
美春は身を固くして男性の様子をうかがった。

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