うろたえる40男 : MIHARUアラウンド

うろたえる40男

「…雨女?…雨男?ってゆーかまた飲んでるなこいつ!」

美春の手元のスーパードライに目を留めると、麻生は”ざくざくざくっ”と、草むらを掻き分けながら美春のもとに近づいてきた。
「まあまあ固いこといわずー」
そういいながら笑う美春の姿に麻生は目を覆った。
「おいおいまだ4時だよ、その手に持った缶はなに?また健史くんとけんかしたの?」

「違います、今日のお酒はやけ酒ではなくて景気づけのお酒です」
「そして4時は夕方ですからお酒を飲んでもなんの問題ありません」
麻生は美春の顔を覗き込みながら「口の減らない女だ…」とつぶやいた。
「失礼ね、弁がたつといってください、販売員時代は常に売上げトップでした」
美春は”ふふん”という自慢げな表情を作った。
しかしその自慢げな表情はすぐに真顔になった。

「麻生さんは今日何してたんですか?」
麻生はいつもの人懐っこい笑顔になった。
「寂しい独身男にそんな残酷なこと聞くなよー、休みを利用して散髪に行って、日用品を買い出したその帰り」
「一度家に戻ってから常連の居酒屋で晩飯でも食おうと思ってたところ」

「へえ、その常連の居酒屋さんおいしいんですか?」

「けっこうおいしいよ、平日の夜は地元の客で賑わってる、酒の種類も充実してるし」
「美春ちゃんも今度友達とでも行ってみれば…」
…と言いかけた麻生の言葉を美春は遮った。
「今度じゃなくて今日がいいんですけど」

「えっ?今日?その言葉をどう捉えれば…」
麻生はうろたえ、ロボットのようなぎこちない動きになった。
美春は傘の隙間から麻生を見上げた。
180センチ近い長身の麻生を見上げるのは首が少々つらかった。

「少し景気づけしていいですか?」そう言いながら美春はビールを一気に飲んだ。
そしてゆっくりと語りだした。

「焼肉屋で健史とけんかした日にも、電話のやりとりに落ちこんで泣いてた日にも雨がふっていました」
「わたしが雨女なのか、健史が雨男なのかなんて考えていたんですが、ふとあることに気づいたんです」
「…そうなんです、どちらの日も麻生さんとこの草むらで偶然会っているんです」
麻生はどんな表情でいればよいのかわからず、美春の話しを黙って聞いていた。
美春はひとりでしゃべり続けた。
「わたしでも健史でもなく、麻生さんが雨男だったんだ!と閃きました」
美春は空になったビール缶を握りしめた。
「お互い家は知りませんが、おそらくこの草むらを挟んで近くに住んでますよね」
「だから今日の午後から雨がふりだした時、麻生さんが雨男ならばまた草むらに現れるかもと願懸けをしました」

麻生の戸惑いが美春に伝わってくる。
かまわず美春はしゃべり続けた。
「わたし最近、麻生さんのことが頭から離れないんです」

雨足はさらに激しくなり、美春と麻生の頭上に容赦なくふり注いだ。

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