心に花束。誕生日にドンペリを : MIHARUアラウンド

心に花束。誕生日にドンペリを

この雨でさすがに人通りも途絶えていた、美春と麻生は激しい雨の中見つめあっている。

しばらくの沈黙のあと、麻生がなんとか口を開いた。
「そんなこと言われると、期待しちゃうんですけど…」
美春は麻生の目をじーっと見つめながら言った。
「期待されても困るんです、まだ健史と正式に別れたわけでもないし」
「どうして麻生さんのことが頭から離れないのかもまだ自分でわからないんです、でも気になるんです」

「なんと勝手な言い分…」
そう言って麻生は唖然としたが、数秒後には笑いだした。
「スパークリングワインをラッパ飲みするわ、美春ちゃんは変わった女だなあ、まったく予測不能だよ」
「しかし、来年アラウンド40の男に関心を抱いてくれるなんて正直うれしい…というのがおれの本音」
遠くの鐘が5時を知らせたので美春と麻生は我に返った。
「もう5時かあ、わっ、すっかりまわりが暗くなってるぞ!全然気づかなかったなあ!」

麻生と美春は草むらから道路に出た。
「さあ、独身やもめ男は居酒屋で晩飯でも食いにいくかあ」そう言いながら麻生は歩きだす。
どうリアクションしていいかわからず、美春はその場から動くことができない。
「けっこうおいしいよ、美春ちゃんもいっしょに行く?」
麻生は歩くのをやめて美春のほうに振り返った。
美春は「行く…麻生さんのおごりなら」と、麻生のもとに走り寄った。
「おごるのは全然かまわない…しかしひとつだけ頼みがある…」

「えっ、なに?頼みって…」麻生の言葉に美春は不安の表情を浮かべた。
「頼むから、その居酒屋で瓶ごとラッパ飲みはやめてくれよー!!」
言い終わると麻生は”あっはっはっ”と思いっきり爆笑した。
「ちょっとー、そんなこと他人に言わないでよ!?ほんと頼むよ!あれはかなりレアなわたしなんだから!」

「へえー、レアなんだ、なんか自然で板についてたけど…ラッパ飲みが!」
 麻生はまだ爆笑している。
「もういい、わたし帰る!」
「ごめんごめんもう言わないから許して、おごるから」
麻生は顔の前で両手をあわせて謝った。
「ふん、麻生さんだって人のスパークリングワイン奪い取ってラッパ飲みしてたじゃない」
美春は口をとがらせた。
「奪ったとは人聞きの悪い…酒を酌み交わすとかいって無理やり押し付けられた記憶が…」
さらに美春は言う。
「ふん、嫌がってたのは最初だけ、最後は自分から進んでラッパ飲みしてたじゃない」
「やっぱりばれてた?」麻生は片目をつぶって頭を掻いた。

「麻生さん、わたし12月が誕生日なんですけどー、その時お願いがあるんですけどー」
今度は麻生が不安になる番だ。
「えっ?お願いにもよるけど…」
美春はにやっと笑った。
「誕生日に”ドンペリニョン”飲みたい!しかもラッパ飲みで!」

”ドンペリニョンをラッパ飲み”
「最悪すぎるー」ふたりはおなかがねじれそうなほど大爆笑しながら居酒屋までの道のりを歩いた。

― 今日もいつしか雨は上がっていた ―

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