予想GUYな返事
夜10時もまわり、岡と美春は飲み会を解散して『金魚』を後にした。
電車を降りて、自宅までの道のりをふらふら千鳥足で歩いている
シャブリの白を2本も飲んだ、しかもほとんどひとりで。
今日の飲み代はおそらく岡のポケットマネーだろう、かなりお金を使わせてしまった。
岡に悪いことをしたなあと、心の中で美春は舌を出した。
まだ今日やり残していることがある。
美春はバッグから携帯電話を取り出した。
着信・メール件数ゼロ…。
携帯電話のアドレス帳から「岩間健史」を検索してダイヤルした。
6回目のコール音が鳴ったところで健史が電話に出た。
「もしもし健史?わたし、美春」
健史は少し考えた様子で「ああ、どうしたの」と抑揚なく返事をした。
美春は傷ついた。
どうしたのって…、けんかをして別れるとまで言ったのに、健史は何事もない普通の日常を送っていたの?
わたしはいつも頭の片隅から健史のことが離れなかったのに…。
美春はこの気持ちを心の中に封じこめた。
女性としてのプライドがある、相手よりも自分のほうが未練がましいなど言語道断だ。
しかも別れようと言い放ったのは美春のほうだった。
健史との電話でのやりとりもできるだけ優位に立ちたい、毅然と、せめて同等に振舞いたい。
「この前焼肉屋を飛び出してそれっきりだったから、このままじゃ中途半端だと思ったから」
できるだけ平静を装う美春に、健史からのそっけない返事がかえってきた。
「美春が別れたいと思うのなら仕方ないよ、おれは受け入れるよ」
健史のこのセリフは想定の選択肢の中にあったはずだ、想定外ではないはずだ。
なのに美春は頭が真っ白になった。
中途半端なプライドが美春から素直さを奪う、ますます頑なにさせる。
「別れるにしても一度きちんと会って話したほうがいいよね、お互いのために」
「このままじゃあ、健史も後味が悪いだろうし」
健史の声に少しだけ抑揚がこめられた。
「…ってゆうかおれは、どうして美春がいきなり怒ったのかが全くわからない、ただ楽しく食事をしたかっただけなのに」
「しかも別れるといっていきなり店を飛び出した、おれは店にひとり取り残された、かなり気まずかった」
美春の心臓音が早鐘のように打ち始めた。
「おれは楽しく付き合いたかったが美春が別れたいと思うのなら仕方ない、おれなりに悩んだ」
「外で会ってきちんと別れ話をしようと美春が望むのならそれに従うよ、ただ…」
「おれにも仕事というものがある、今も自宅で明日の会議の資料を作成している最中だ」
美春は「あっ、ごめん…」と謝った。
「今日はもうこの辺で電話を切りたい、別れ話の日時は美春の都合にあわせる」
言い終わると健史はそっけなく電話を切った。
切れてしまった電話を片手に持ったまま、美春はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
BACK HOME NEXT
電車を降りて、自宅までの道のりをふらふら千鳥足で歩いている
シャブリの白を2本も飲んだ、しかもほとんどひとりで。
今日の飲み代はおそらく岡のポケットマネーだろう、かなりお金を使わせてしまった。
岡に悪いことをしたなあと、心の中で美春は舌を出した。
まだ今日やり残していることがある。
美春はバッグから携帯電話を取り出した。
着信・メール件数ゼロ…。
携帯電話のアドレス帳から「岩間健史」を検索してダイヤルした。
6回目のコール音が鳴ったところで健史が電話に出た。
「もしもし健史?わたし、美春」
健史は少し考えた様子で「ああ、どうしたの」と抑揚なく返事をした。
美春は傷ついた。
どうしたのって…、けんかをして別れるとまで言ったのに、健史は何事もない普通の日常を送っていたの?
わたしはいつも頭の片隅から健史のことが離れなかったのに…。
美春はこの気持ちを心の中に封じこめた。
女性としてのプライドがある、相手よりも自分のほうが未練がましいなど言語道断だ。
しかも別れようと言い放ったのは美春のほうだった。
健史との電話でのやりとりもできるだけ優位に立ちたい、毅然と、せめて同等に振舞いたい。
「この前焼肉屋を飛び出してそれっきりだったから、このままじゃ中途半端だと思ったから」
できるだけ平静を装う美春に、健史からのそっけない返事がかえってきた。
「美春が別れたいと思うのなら仕方ないよ、おれは受け入れるよ」
健史のこのセリフは想定の選択肢の中にあったはずだ、想定外ではないはずだ。
なのに美春は頭が真っ白になった。
中途半端なプライドが美春から素直さを奪う、ますます頑なにさせる。
「別れるにしても一度きちんと会って話したほうがいいよね、お互いのために」
「このままじゃあ、健史も後味が悪いだろうし」
健史の声に少しだけ抑揚がこめられた。
「…ってゆうかおれは、どうして美春がいきなり怒ったのかが全くわからない、ただ楽しく食事をしたかっただけなのに」
「しかも別れるといっていきなり店を飛び出した、おれは店にひとり取り残された、かなり気まずかった」
美春の心臓音が早鐘のように打ち始めた。
「おれは楽しく付き合いたかったが美春が別れたいと思うのなら仕方ない、おれなりに悩んだ」
「外で会ってきちんと別れ話をしようと美春が望むのならそれに従うよ、ただ…」
「おれにも仕事というものがある、今も自宅で明日の会議の資料を作成している最中だ」
美春は「あっ、ごめん…」と謝った。
「今日はもうこの辺で電話を切りたい、別れ話の日時は美春の都合にあわせる」
言い終わると健史はそっけなく電話を切った。
切れてしまった電話を片手に持ったまま、美春はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
BACK HOME NEXT