ピンク珊瑚のネックレス : MIHARUアラウンド

ピンク珊瑚のネックレス

さあ趣味の天然石アクセサリーの製作でもはじめようかな、美春は天然石や金具パーツがごちゃっと入ったボックスをあけた。
完成途中のネックレスを胸元に当てながら鏡の前に立つ。
ピンク珊瑚のかわいい天然石チェーンにこっくりとした茶色のおおぶりな天然石トップが飾られている。
ピンク珊瑚と茶色の暖かい色味は、これから秋冬にむけての洋服に合わせきっと活躍してくれるだろう。
平日の夜に少しづつ製作を進め、今週末に完成させる予定だった。

美春は大手のアパレル会社でアシスタントMDを担当している。
洋服がショップに到着してお客様の目に触れるまでには、年間予算が組まれトレンドを読み、バイヤーが手腕を発揮して買い付ける流れがある。
MDおよびアシスタントMDはそれらの販売戦略に多方面でかかわる仕事だ。
ショップに指示を与える会社側の立場だが、バイヤーに比べ、ショップにも非常に近い存在でもある。

美春は当然洋服は好きだが、それと同じくらい、いやもしかしたらアクセサリーのほうが好きかもしれない。
一見シンプルな服も、アクセサリーや小物をあしらうことでたくさんのイメージを演出できる。
洋服とアクセサリーの科学反応をみると美春は心がワクワクする。
最近では、手持ちのアクセサリーのデザインを活かすために洋服を選んでいるくらいだった。
30歳目前になって、美春のアクセサリー熱はますます高まり、とうとう自分で製作するにまで至ったのだ。

平日の作業が思ったよりもはかどったので、このネックレスももうすぐ完成しそうだ。
美春は時が経つのも忘れ作業に没頭した。
天気のいい土曜日の朝、部屋にはのんびりとボサノバのリズムが流れている。

正午前にピンク珊瑚のネックレスは完成した。
このネックレスを着けて、午後から気晴らしの散歩に出かけることに美春は決めた。
「何を着ようかなあ」
鼻歌を歌いながら秋らしくボルドー色のニットを選び、完成したばかりのピンク珊瑚のネックレスを身につけると気が引き締まった。
さあ出かけよう、玄関に向かいリビングを横切る。
リビングを横切る美春の視界に黄色のゴミ箱が映った。
一度足をとめて、ゴミ箱をちらっと盗み見る、そしてまた玄関に向かい歩き出す。
「ああもう、なんでよ!」
そう呟きながら美春は黄色いゴミ箱に足を戻した。

5分後、美春は玄関に鍵をかけて散歩に出かけた。
ひんやりとした空気の中に枯れ葉の匂いが漂ってくる。
澄み渡る秋空にはうろこ雲が散らばっていた。
「晴天なり晴天なり」
相変わらず鼻歌を口ずさみながら美春は空を見上げ歩きだした。

― 自宅の冷蔵庫の扉には、料理レシピの横に、くしゃくしゃになった麻生の名刺がマグネットで貼り付けられていた ―

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