美春の心の戸惑い : MIHARUアラウンド

美春の心の戸惑い

いつの間にか雨はやみ、草むらにに宿る雨露だけが今しがたまでの雨の記憶を留めていた。

「だったら美春ちゃん、おれと今度食事つきあってよ」

「えっ…?」突然のことで美春は慌てた。
麻生は美春の頭をぽんぽんと叩くと「冗談だから大丈夫」と笑った。
「さあそろそろ退散しよう、お互い明日の仕事がある」
そう言って麻生は腕時計に目を走らせた。
深夜0時を少し回っていた。

草むらから道路に出て「じゃあここで」と言いながら麻生は美春に笑いかけた。
「美春ちゃん、健史くんのこと違う角度で見てあげることも大事だよ」
「そして、仕事のことは岡マネージャーって人がいうことも一理ある、社会人は我慢も大切だ」
「最後に…もうこんな場所でひとりで飲んじゃいけないよ、いい女なんだから!」
二人は道路をはさんで左右に別れた。
美春は何度か、街灯に照らされた麻生の後ろ姿を振りかえった。
麻生も何度か振り返り、目が会うたびにお互い笑った。
そして道路の角を曲がり、とうとう麻生の姿は見えなくなった。


はっと美春は我に返り、マグカップにコーヒーを注ぎ直した。

さあアクセサリーを完成させないと。
美春はリビングのテーブルで手を動かし続けた。
今回のアクセサリーにはオニキスと淡水パールを使用している。
真冬になったらお気に入りのグレーのウールコートにこの淡水パールのピアスをあわせよう。
かといって淡水パールならば普段着にも活用できる。

雨がガラス窓を叩く音が聴こえて美春は手をとめた。
リビングの時計をみると正午を回っている。
「本当にふってきたよー、最近の天気予報はすごいねえ」美春は椅子から立ち上がり、両腕を上げ背筋を伸ばした。

窓の外を眺めながら、美春は自分の心に戸惑っている。
冷蔵庫に走りより、くしゃくしゃになった麻生の名刺を見つめた。

美春は戸惑っている。
だって月曜日以降、麻生の顔がいつも頭から離れないから。

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