対立!氷つく会議室 : MIHARUアラウンド

対立!氷つく会議室

「激戦の新宿では、商品の鮮度不足は致命傷です!次回の商品投入まで10日もかかるんですか!?」

瀬戸は何の悪びれもなくそんな本沢の顔色を見つめた。
「8月下旬の時点で新作をふんだんに投入してるはずです」
「棚卸しで確認したところ、上代で2500万円の店頭在庫があるじゃありませんか」
そう言って瀬戸は悠然と微笑む。
窓から差し込むオレンジ色のやわらかい光線が瀬戸の顔色を照らしている。
本沢は食い下がった。
「MD計画ではブライトカラーのニットがたくさん投入される予定になってました、でも実際に投入されたのはほんのわずかです」
猶も本沢は続けた。
「常連のお客様にもあまり新作が入っていないねと言われてしまっています」
「在庫はありますがベーシックすぎるんです!」
「ベーシックな洋服は皆さんすでに一通り持っています、そんなにぽんぽんとは売れません!」
最後は悲鳴に近い声になった。
瀬戸はちらりと秋山商品部長の顔色をうかがいながら本沢に言った。
「ベーシックのよさをアピールできないんですか?販売力の欠如といえません?」

ここまで言われるとさすがに美春も黙ってはいられない。
「秋山商品部長、瀬戸バイヤー、意見を述べることは許されますか?」
美春は挙手して椅子から立ち上がった。
瀬戸が何か言おうとしたが、秋山はそれを静かに制し、美春の発言を促した。
ひと呼吸おいて美春はしゃべりはじめた。

「販売員として採用されている以上、どんな商品も積極的に売り切っていく、その姿勢は当然問われるべきです」
「でもショップ店員にとっての働きがいと誇りって大事だと思うんです」
「彼女たちは、素敵な商品に囲まれ愛着を持ちながら都心のお洒落のシンボルである、そこに働きがいと誇りを感じるんじゃないでしょうか」
美春は瀬戸を見据えた。
「特にセレクトショップでは、提案型の姿勢を強く打ち出してイメージを確立したほうが結果良い方向に進むと思います」
「秋冬のMD計画としてブライトカラーやファー素材を打ち出したはずですが、たしかに本沢店長の指摘どおり投入量が少ないですね」
「買い付け量自体も少ないようですし、商品の投入バランスから見て予算で苦戦するのは仕方ないと感じますが…」

きつい指摘もこの辺でやめておけばなんとか丸く納まるのだが、美春は腹に一物が苦手な性分だ。
健史と焼肉屋でけんかした時のように口が勝手に動いてしまう。
「瀬戸バイヤーの買い付けっていつも無難すぎる気がします、パリコレとか研究してます?」

瀬戸の表情がすさまじく変わり、会議室の空気が一変に氷ついた。

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