日本ビーズアーティスト展覧会 : MIHARUアラウンド

日本ビーズアーティスト展覧会

ビールの酔いが少しづつ体をひたしてゆく。

「麻生さん、野球のユニフォーム似合うね、なんかプロッぽい」
美春のセリフに、『らいおん』のマスターがカウンターの中から大きな笑い声をあげた。
「美春ちゃん、麻生はもともと会社の野球の実業団リーグで4番バッターとして活躍してた選手だよ」
マスターの言葉に美春の目がまんまるになった。
「ええええっ麻生さんすごいじゃない!びっくりした」
麻生はバツが悪い顔をした。
「マスター余計な事を…、まあ大学時代そこそこの成績を残したんで…」
「今の会社も実業団選手として入社したんだけど、会社の業績不振から10年前廃部になったってわけ」
「だからもう過去の話、今はただのサラリーマンです」
麻生の以外なプロフィールに美春は驚いた。
「麻生さん、背も高いし、顔も黙ってれば精悍だし、性格は3枚目だけど…」
「黙ってればとか性格は3枚目とか、微妙にけなしてるじゃん!」
ばれた?といってふたりは大笑いした。

美春は再度草野球の写真を見つめる。
アルコールの酔いが草野球の写真にふわっと薄幕をかける。
人にはそれぞれ歴史があるものだ…と美春は少し感慨深くなった。
今度草野球の試合があるときにはぜひ応援に行きたい、麻生がバッター座席に立つ姿をみてみたい。

「そういえば…」
ふと思い出したように、美春はバッグから一枚のチラシを取り出した。
「麻生さん今週の日曜日ひま?行きたいところがあるんだけど」
チラシには”日本ビーズアーティスト展覧会”というコピーと綺麗なビーズアクセサリーの写真が数点掲載されていた。
”日本ビーズアーティスト展覧会”では、日本の代表作家たちの作品を取り扱っている。
横浜高島屋の催事場で、今週末から2週間展示開催されることが決まっていた。

「会社に展覧会の案内が送られてきたの」
「わたし好きなんだあ、ビーズとか天然石とか、今日付けてるアクセサリーも自作なんだけど」
”ほう”と麻生は美春の胸元を飾るオニキスと淡水パールのネックレスに目をやった。
「これ、自分で作ったの?すごいねえ、美春ちゃんこんな才能もあるんだ、この道で食っていけるんじゃない?」
「えっほんとにそう思う!?」麻生に褒められて美春は心が舞い上がった。
「こういう世界おれ無知だけど、才能は感じるよ」
「ところでその展覧会、おれが会場にいても浮かない?それが非常に心配なんだけど」
美春はもつ煮込みとビールのお代わりを注文した。
「全然大丈夫!浮いてるから!その浮いた居心地悪そうな姿を影で笑うのが醍醐味じゃない!」
「どうしてきみは、そんな憎まれ口をぽいぽい言えるのかねえ」

麻生はため息をつきながらもいっしょに行く約束をしてくれた。

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